第2話 2年間で10箱の煙草の喫煙率は小数点以下

 

「サイ!」


 サイと呼ばれたその少年が返事をする。


「此処か? 俺が働く場所は」と、男は禁煙パイポをくわえながら呟く。


「そうです!」と、サイは、元気よく答える。


 男は、フレンチコートにシルクハット。闇色のスーツ。夜にうごめく白い帽子が、辺りの静寂さに脈打ち、動的な空間に変容させる。


「龍の旦那。本当に此処を塒に」

「当たり前だ。此処を俺の城にする」

「旦那。夜明けです」


「そうか……」


 薔薇色の黎明れいめいの光が、男の背中を包み込み、これから始まる男達の戦場を照らす。

 男の名前は、王 龍丹。B・D-1と呼ばれる男だ。


 

 大和府西京市にある禅寺の名刹、天剣寺である。天剣山全体に仏閣ぶっかくが位置し、大伽藍だいがらんとなっている。

 此処に仏教系の私立天剣小・中・高・大学が存在しており、一大宗教都市を形成している。


 彼女。そう彼女の名前は愛崎れん。尼になる為に此処で勉強している少女だ。

 全寮制の一貫教育の場で学んでいるれんが、今自室で液晶ディスプレイの前で一所懸命格闘している。れんがやっているのは、今巷で流行っているRPG『ラスト・ドラゴニア』というオンラインゲームだ。


「あっ! 負けた・・・・・・」


 少女は沈鬱ちんうつな表情を天井に投げかけた。魔法を使ったものの、魔物に倒されたヒロイン。


「フーッ。じゃぁ、今日の私の株価は、と……」


 少女は別の画面を開き、自分の株価をチェックする。


「どれどれ……。110円か。新米しんまいだから仕様が無いか」

 

 このオンラインゲームにはまっている高校1年生。


 少女の名前は、そう、愛崎れん。だ。


 れんの今日の株価は110円。株券一枚の値段が110円という事だ。

 1000株単位で買う時、100円が1円上がって101円になった時、1000円の利益。

 株価が1枚1000円だった時、1円上がって、10枚持っていたら利益は10円。

 株価が100円だった時、1円上がって 100枚持っていたら利益は100円。

 1000円×10枚=10000円。

 100円×100枚=10000円。

 同じ額でも100円の株券1枚の株価が1円上がった方が利益が高い訳で、大企業の株券の1枚の額面が低いのは、たった1円上がっても利益が出るからだ。

 


第2話 了

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