第4話 三十六計の走為上は恥では無い!


「選んだ職業もです。魔法剣士。とりわけ治癒の呪文をプラススキルで獲得している。味方が危機に陥った時彼女が助けてあげられる。それに彼女の身につけている逃亡の術。中国、三十六計の走為上。戦闘を避けるのが一番の方法という事ですが、彼女は女性故に敏捷性びんしょうせいに優れ、また逃げる決断をしても戦闘評議会から教育的指導を受けないで済みます」


「成る程。では西証一部に上場されるのを待つとしますか」


「そうですね」


 

 秋の黄金色こがねいろの日差しとたわれる時間が中天に達する頃、れんの通う学校の生徒達はお昼休みの談笑に花を咲かせていた。

 話題は勿論もちろん自分の株価の事だった。

 オンラインのRPG『ラスト・ドラゴニア』のプレイヤーは、全世界で五百万人を超え、特に発売元の日本では、中高生中心に爆発的な人気を誇っていた。


「ねぇ、れん! 昨日の株価はどうだった?」


 れんの親友の言葉だ。


「そう、それがすごいのよ! 一気に30円もアップしたの!」


「本当に?! あたし、アンタの株、百株持ってるから3千円の儲けか!」


「そだね」


「でもあたし、アンタの戦闘観測者として見てたけど、『ガラムの洞窟』の中で負けちゃったじゃない」


 観測者。ウオッチマン。


「そうなんだけど……。誰かがアタシの株を大量に買った人がいるみたいで」


「そなんだ。まるで足長おじさんだね?」


 れんは頬杖をついて、窓の外の銀色のプールの煌きに心を遊ばせていた。


(『ドラゴニア』かぁ……。一体どんな所なんだろう)



第四話 了


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