第8話 オラが街



 『ガラムの洞窟』に一番近い村、ルキド。イブラム通りに軒を構える酒場オーグにやってきたマシールと、シィが演じる男装の麗人れいじんの剣士ユーリは、カウンター席に座り酒場を見回す。

 談笑を咲かせる男達のドラマ。チャットによりプレイヤー同士が会話している。 その時、この酒場の見世物、レヴューが始まり、皆がその踊りと歌声に聞き惚れる。 

 羽のついた衣装を身に纏う女神達の晴れやかな笑顔が男達の心を鷲掴わしづかみにしている。


「綺麗な人達だね。でもさぁ、私達みたいな新米の女剣士と組んでくれる人いるかなぁ」


「うん。あの人なんかどう?」


 ユーリが目配せする。二人の視線の行き着く先には、一人で飲む戦士の男が座っている。 外見はいい男風。腕には無数の傷があり、額には鉢金を巻いている。

 声を掛けてみようかと、マシールがテーブルまで歩みを進める。


「あのぅ、暇ですか」

 

 何という声の掛け方だ。暇だから一人で酒場で飲んでいるというのに。

 暫しの無言。

「あのぅ!」


新手あらてのナンパか? 何処から来た?」


「どっちの意味です」


「お前自身の出身地だ」


「そんな事聞いてどうするんですか」


「お前の株価は?」と、矢継ぎ早に質問を浴びせかける男。


「昨日の時点で240円です」


「話にならんな。俺の株価がどれくらいか聞いたら驚くぞ。9348円だ。一部上場、俺は上株輝者だ」


 それを聞いていたユーリがやって来る。


「それ、本当ですか? 私達と組んで下さいませんか?」  


「嫌だね」


「何故です?!」


「名前は?」


「レディーに先に言わせるつもりですか?」


「ジョス=レオン」


「私はユーリ。彼女がマシールです」


「何?! マシールだと! お前か! 今連続記録を打ち立ているのは!」


「記録?」


 何の事だと首を傾げる二人の女剣士の後ろで、踊り狂うダンサー達。


「説得率の事だよ! このゲームを始めて以来、連続120回の戦闘で皆物の怪を説得して神上がりさせている!」


「私、そんな事、考えた事は・・・・・・」


「説得率100%! 気が変わった! 組んでやる!」


「本当ですか!」


 二人が声を揃えてそんな言葉を口走った。


「お前達は何処にいくつもりだ」


「『ガラムの洞窟』です」


「ああ、あそこか。あの洞窟の最下層にある金剛石 《こんごうせき》採掘場から金剛石を取ってくる事が、武道会への参加資格だからな。お前達もあの大会に出るのか?」


「もち、のろんよ」


第八話 了



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