第24話 カノン 畜生道へ堕ちる


「いけない訳じゃないと思う。仏の教えには六つの世界があるというでしょ。天道、人道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道、この六つの道の中で天道には諸仏や神々が住んでいて、私達が住んでいるのは人道でしょ。いえ、違うかも。そう、私は生き方の問題だと思う。人道とは人間として生きる道、畜生道とは動物として生きる道。問題はこの人道も試練の道だという事なの。欲望の解放を聖化ベクトルにおいてどう昇華させるかのね」


「聖化ベクトル?」


「分かりやすく言うと悟りに至る為の宗教実践行為、つまり修行の事。だから善人ばかりの人道だとそれは即ち天道と一緒。人道とは試練の道だから悲しみもなければいけないの」


「じゃぁ、悲しみは態と作られるという事? もしかして神様が作ってるって事!」


「そうじゃない。神様は人間を愛しているからこそ試練を与えているのかもしれない。人間に上手に欲望を昇華して欲しいと願っているのかも」


「答えになってない! 私が聞きたいのは神様が人間に悲しみを与えているのかって事!」


「自分だけを愛する道を生きるのではなく、他人の為に涙を流して欲しいって事よ」


「だから! その為にわざと悲しみを与えているのかって事を聞きたいの!」


「それは業と関係あると思う」


「うん、カルマって事でしょ」


「カルマは現世での人間の行為が来世において肯定的、又は否定的な結果を招くという事」


「つまり、現世で悪い事をすれば、生まれ変わった時にその報いがくるって事でしょ」


「そう。神様の願いは、人間全体のそのカルマが無になる事だと思う」


「無になる?」


「うん。原罪を贖う為、つまり贖罪しょくざいでカルマを帳消しにするって事だと思う」


「原罪って人類最初の夫婦が知恵の実を食べて、善悪を知るようになり恥ずかしさを知ったという事でしょ?」


「うん。だけど私はそれは間違いじゃないかと思うの。そこにこのゲームをクリア出来るかどうかがかかってくると思うの」


「そうかぁ。私も行為次第で結果が異なるというのはわかるけど、そうなると無になるには一切の行為をしない方がいいという事に繋がらない?」


「だから天道があるのよ。天道では一切の行為は必要ないのだと思う。あるいは、天使として生きる道なのかも」


「じゃぁ、こういう事か? 人間の世界で他人の悲しみを理解し、他人の為にどれだけ慈悲の心を尽くせるか修行し、善行を行った後に天道に入ると」


「私は覚者かくしゃじゃないからわからないけど、そう思う」


第24話 了



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