第14話 八百比丘尼(やおびくに)


「ただいま!」

 

 寝殿しんでん造りの屋敷の玄関を入ると、


「れん! 早く着替えて! お見合いよ!」


 と、母親が手を引っ張り和室へと連れて行く。


「私、お見合いなんてしないよ! まだ高校1年生だし……。私 尼僧にそうになるんだから!」


「いい加減目を覚ましなさい! 若者らしい夢を持って!」


「聖法将軍の妻になる事が若者らしい夢だって言うの?!」


 二人の会話を他所よそに、れんは着付けの人に着物を着せられている。


「次期将軍、つまりお世継ぎの青年がえらくあなたの事を気に入ってるの!」


「会った事もないのに?」


「だからこれから会うんでしょ! 先方はもう待っているの!」


「うん……」


 そこに障子が開けられた。現れたのはこの家の当主、れんの父親である。


「お父さん!」


「れん。そこに座りなさい」


 着付けを終え、れんは正座する。


「お前の株、急騰きゅうとうしているようだな。総理もお前に注目している」


「えっ?! 総理大臣が? どうしてよ?」


「それはまだ言えん」


「気になるなぁ……」


「それより、今は見合いの事を考えろ」


「うん……。本当に会うだけでいいの」


「お前は高校生だが、我が将軍家末裔の一人娘として立派な男と結婚して貰わねばならん。長男の祭が出奔してしまった今となってはな」


愛崎祭。れんの兄で聖法将軍候補の一人だった男だ。


「うん。……会うだけは会う」


「そうか」


第14話 了


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