頼もしいギャレック邸の仲間たち①
さて、いつまでもベッドの上にいるわけにはいきません。
身支度を整えるため、私はベッドから降りました。
ゾイが自分はメイドなのだから何でも手伝うよ、と申し出てくれたのですが、私はお世話をされるということに慣れていませんからね。今日は自分で、と遠慮させてもらいました。残念そうに眉尻を下げられてしまいましたけれども。
いやぁ、貴族とはいっても私は基本的に自分のことは自分で出来ますからね。なんなら料理も掃除も得意な方ですし。
辺境伯の妻としてはダメダメなのはわかっています。ある程度は人にやってもらう、ということに慣れておく必要はあるでしょう。
けど、それも少しずつ慣れていけばいいのです。せめて初日くらいは自分のペースで……そう思っていたのですが。
なんと、顔を洗うという最初の動作さえ出来ず、すぐゾイに助けを求めることになってしまいました。
「み、水が出せません……!」
どうやらギャレック邸では、ほとんどの設備に魔道具を使用しているようなのです。
ああっ、貴族邸なのですから当然のことだというのに、失念していましたーっ! これは盲点ですっ!
何度も言いますが、私は魔法が効かない体質。それはつまり、身体に全く魔力がないということでもあるのです。
ただ魔法が使えないという人はたくさんいらっしゃいますが、それでも身体に流れる微量な魔力を検知して魔道具は発動します。けれど私にはその微量な魔力さえないので、魔道具という魔道具全てを使うことが出来ないのです。
そうは言っても、別に不便に感じたことはありませんよ? 魔道具が使えなくても代用品はあるわけですし、一般家庭はそれが普通ですし。
それにウォルターズ家ではそれが当たり前でしたので、水は井戸から運び、火も薪を使っていました。
もちろん、一応は貴族なので魔道具もありましたが、私が使うことはなかったのですよ。
だからすっかり忘れていましたぁ……!
「はぁ、驚いた。まったく魔力を持たない者ってのがいるんだね。普通、魔力切れを起こすと意識を失うというのに」
事情をゾイに説明すると、とても興味深げな感想が返ってきました。
そうなんですよねぇ。精神力と直結するとも言われている魔力がないのに、なぜ普通に生活出来ているのかとお医者様にも首を傾げられたことがあります。
まぁ、私としてはそんなことを言われましても、って感じなのですが。生まれた時からこうですので。
「あ、魔石を持っていればいいんじゃないかい?」
「それだと、魔石の魔力も効果を発揮しなくなるのでダメでしたね……」
「なるほど、試したことはあったってわけか」
そりゃそうですよ! 魔道具だなんて便利なものを使えないなんて人生損してます!
うぅ、こればっかりは魔力がない自分を恨みましたね。ええ、そうです! 生活は出来ますけど、憧れっていうのはあるじゃないですか! 魔法を使ってみたい、って思うのは当たり前なのですよぉっ!
子どもの頃は何度も泣いて両親を困らせましたね……懐かしい思い出です。
ま、言っても仕方ないことなので、今はそんなに気にしていませんけれどね。
「ま、その辺はエドウィン様に相談だね! 今日の所は大人しくお世話されな!」
「ひぇ」
水を出してもらえればそれで良かったのに、結局ゾイは面白がって着替えから何から全てやってくれました。
有無を言わさぬ迫力に私が抗えるわけもなく、慣れていなさ過ぎてギクシャクしてしまい、ゾイは終始くつくつと笑っておりました。
こうなったら初日だからとか言っていられませんね。すぐに慣れてみせますよっ。い、いつか完璧で素敵なギャレック夫人と言われるようになってみせるんですからねーっ!
朝食まで終えた後は、午後に採寸の予定がある以外は自由にしていいとのことでしたので、ゾイにお屋敷の案内をしてもらうことにしました。
ちなみに採寸と聞いた私はかなり慌てましたよ! 当然、私の服を仕立ててくれるということですからね、そりゃあ驚きましたとも!
「ギャレック辺境伯の妻になる方が、ドレスと普段着の二着しか持ってないってのは由々しき事態だろうが」
いやはや、その通り過ぎて何も言えませんでしたね。ああ、こんなことなら美味しいものにばかりお金を使ってないでもう少し服を買っておくんでした。
服を買うお金がなかったわけではないですよ? お父様のお仕事は繁盛していましたし、貴族を名乗れる程度にはお金がありましたから。生活はほぼ一般的な平民の暮らしでしたけれど。
ただ私があまりお洒落には興味がなかったんですもの……。欲しいものを聞かれた時も大抵は食べ物にしてもらいましたし。だって、その方がみんなで楽しめるでしょう?
それに贅沢品を買うくらいならその分、パメラやアルバートのお給金に回してほしかったですし。
食い意地が張っているわけじゃないですよっ! でも美味しいものはそれだけで幸せになれるのは事実として言っておきます。
と、いうわけで私が持っている服は必要最低限の物のみ。言われた通り、ドレスを作ってもらうことになったというわけです。
ちょ、ちょっとだけワクワクしちゃいますね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます