魔力を持たない私③
ゾイに急かされ、どうにか我に返ったミシュアルはすぐに私の目の前に立ちました。
小柄だと思っていましたけれど、こうして前に立ってみると私よりも背が高いのだとわかります。
あ、あれ? 急にミシュアルの身体が赤く光り始めましたよ!?
「見えるかい? これが普段みんなが纏っている魔力だ。色をつけてわかりやすくしたよ」
へぇぇ、これが魔力! すごい! 魔法は見たことがありますけど、魔力を目にするのは初めてで新鮮です。
ゾイがポツリと器用なヤツだね、と言っていましたので、魔力に色をつけるなんてことはきっと誰にでも出来ることではないのでしょう。それを当たり前のようにやってのけるところに、この人の底知れなさを感じます。
「まず、奥方様。ちょっと僕に触れてくれる?」
「変態」
「ちっがう! 実験だから! 腕でいいから!」
私が返事をするより早く、ゾイが冷めきった目と低い声で口を挟みます。
さすがに少しかわいそうに思えてきましたので、戸惑うことなく言われた通りにミシュアルの右腕にそっと触れてみました。
すると、不思議なことに赤く光っていた魔力が一瞬にして消え去ってしまったのです。
あ、あれ? これって私が触れたから消えてしまったのでしょうか?
「ふむふむ。じゃあ次。また同じ場所に触れてくれる?」
驚く私を気にすることなく、ミシュアルは再び身体に魔力を纏いました。
ですが、今度は先ほどとは少し違います。身体全体は赤く光っているのですが、右腕の部分だけが黄色く光っているのです。
よぉく見ると、肩のあたりでわずかに切れ目が入っているのがわかりました。
何はともあれ、同じように右腕に触れてみます。
すると、今度は腕に纏っていた黄色い光だけが消えてしまいました。身体の赤い光はそのままです。
「ふむー。繋がっていなければ他に影響はなさそうだね。じゃあ次」
ミシュアルは何度も頷きながら次から次へと指示を出していきました。
先ほどまでの変な人は鳴りを潜め、真剣な顔つきです。こうしてみると整った顔立ちですし、女性にモテそうなのですが。
……あの性格は誰に対してもそうなのでしょうか? 余計なお世話かもしれませんが、ちょっと心配になってしまいますね。
「このロッドに触れてみてくれる? ……ふむ、少し魔力が弱まったかな?」
今はこちらに集中、ですね。言われるがまま差し出されたロッドの持ち手に触れてみます。
今度は魔力色がついているわけではないので私に変化はまったくわかりませんが、ミシュアルはブツブツと何かを言いながらロッドをあらゆる角度から見ていました。
「じゃあ最後ね。このロッドの先についてる魔法石に触れてくれるかい? お、さすがに消えるか。なるほど、なるほど」
言われた通り先端についている青い石に触れると、ミシュアルはニコニコとなんだか嬉しそうに頷きを繰り返しました。
何が何だかわかりませんが、彼には何かがわかったのでしょう。羨ましいです。気になります。
「よし、大体わかった。簡単に言うとね、奥方様は直接触れた部分の魔力を消し去ってしまうみたいだ。切れ目があったらそこまでしか消せないし、魔力源に直接触れさえしなければ魔力を持つ物も手に取ることは出来る。人に触れてもそこまで害がないのも、体内の魔力までは消せないからだね!」
ミシュアルはものすごく早口で色々と説明してくれました。な、なる、ほど?
「たとえば、物の中に魔法石を埋め込んでしまえば使えなくもないってことさ。それでも魔力を保持している物に触れる分、どうしても道具本来の威力は出せず、弱まるがね。だが、魔道具を使うには微弱な魔力さえ感知出来ればいいんだから、問題ないだろう」
「じゃ、じゃあ!」
それはつまり、魔道具の件はなんとかなりそうな目途がついたということでしょうか。正直なところ、彼の言うことを完全に理解したわけではありませんが、そういうことなのですよね? ね?
期待を込めて両手を組んでいると、ミシュアルはウィンクをしながら答えてくれました。
「あとはこちらにお任せあれ。エドウィン様と相談して対応策を考えてあげよう」
「あっ、ありがとうございます!」
これは朗報ですね! 少しおかしな人ではありますが、やはりすごい人です。頼もしいです! おかしな人ですが!!
「その代わり、今度もっと詳しく君の身体を調べさせ」
「用件は終わりだね。ほれ、さっさと報告しにいきな、変態野郎が」
「ちょっと! 遮らないでよ! そのくらいいいじゃないかーっ!」
「うっさいね! それなら自分でエドウィン様に許可をもらいな。ま、絶対に許してくれやしないだろうけど」
そんなぁ、と眉をハの字にしたミシュアルを横目に、ゾイに背を押されて先へと進みます。
私としては、私のために尽力してくださるのなら少しくらい協力してもいいとは思うのですけれど……。
ま、まぁ、何をするのかがわからないので簡単に返事は出来ませんが。
それでも、機会があればお話くらいはお聞きしたいと思います。やっぱり、お礼はしたいですからね!
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