魔力を持たない私①


 ジャックとボンドの二人がそろそろ仕事に戻るというので、お二人のお仕事の様子を少しだけ見させてもらってから引き続きお屋敷の探検に戻りました。


 二人のお仕事ぶりはすごかったですね……! ジャックの魔法であっという間にゴミが集まりましたし、それをボンドが凄まじいスピードで集めてしまいましたから。植木の水やりもまるでショーを見ているみたいで楽しかったです。


「ハナ様が見てるからって張り切ってんのさ。あのジジイ共も現金な奴らさね」


 ゾイはそう言って呆れていたけれど、それでもやっぱりすごいと思います。つい子どものようにキャッキャと喜んでしまいましたし。

 私もかなりはしゃいじゃったのでちょっと恥ずかしいです。


 その後は、屋敷の掃除を任されている元魔法部隊の隊員さんたちにも会いました。やはりご年配の方ばかりでしたが、みなさんの逞しさにはもはや驚きませんよ!

 ただ掃除って、あんなにアクロバティックに出来るものなんだなぁ、とは思いましたが。


 けれど、ジャックやボンドのような筋肉ムキムキな人たちではなかったので少しだけ謎の安心感を覚えましたね。

 いえ、筋肉は見ていて感動しますけれど! あまりズラッと揃っていると威圧感があると言いますかっ!


 いやぁ、ゾイも女性の身でありながら筋肉質ですし、屋敷の皆さんがみんな筋肉隆々だったらどうしようかと思っただけなのですよ。

 問題は全くないのですが、私だけ場違いみたいで居た堪れなくなりそうでしたから。


 さて、よく通るだろう場所は大体見て回れたとゾイが言うので、そろそろ昼食にしようということになりました。

 天気もいいので中庭にあるサロンでどうだい? というゾイのお誘いには一も二のなく賛成しましたよ! なんてお洒落な! 緑と色とりどりのお花に囲まれて食事だなんて、王都という都会的な土地ではなかなか出来ないですもん。


 なんだか自分がお姫様にでもなった気分です。今後は似たような立場になってしまうわけですけれど。辺境伯夫人、に……キャーッ! 照れますぅっ!


「っ! ハナ様、あたしの後ろに!!」

「えっ、えっ?」


 脳内で浮かれていたまさにその時、急にゾイが緊迫した声を上げました。

 そのまま手を引かれ、流れるような動作で私を自分の背後に隠したゾイ。い、一体何が……? 


 その答えはすぐにわかりました。


「ふ、ふ、ふ。ずぅっと見てたよぉ? 噂の研究対しょ……ゲフンゲフン。奥方様ぁぁぁ!」

「近寄るんじゃないよっ、この変態魔法研究野郎がぁっ!!」

「ぐふぉあっ!?」


 な、なんだかすごい光景を目にした気がします。急に突進してきた金髪の男性がゾイによって投げ飛ばされてしまったのです。ゾイったら、本当に軽々と成人男性を……!

 それはすごいのですけれど、この男性は大丈夫でしょうか?


 などと心配していましたが、その必要はなさそうです。男性が顔だけを上げて今度は這いずりながらこちらに近付いてきましたので。ちょ、ちょっと怖いです。


「すでに情報は上がってんのさ。くぅぅ、たまんないねぇ! 魔法が効かない体質だなんて初めて見るよぉ! 奥方様ぁ、痛いことしないからさぁ、ハァハァ、ちょおっと研究室でお茶しなぁい?」

「お前はハナ様から十メートルは離れな、ミシュアル! だいたい、なんでアンタがここにいるんだい!」

「ぐぇ……エドウィン様へ、仕事の報告に来たに、決まってる、だろぉ……ああっ、いい研究対象がそこにぃ!」


 こういう言い方が良くないのはわかっていますが……だ、だいぶ気持ち悪いですね、この方!?

 あと少しで私の足に手が届く、といったところでゾイがその背中を踏み潰して止めていなかったら私は叫んでいたかもしれません。


 だ、だって、こんな状態の人に手を伸ばされるなんて初めてでしたから! それにどうも言っている内容に危機感を覚えます。


 ふぅ、少し落ち着きましょう。屋敷に不審者がいるわけがありませんし、仕事の報告に来たといっていましたから身元ははっきりしているはずです。

 でもまだ若そうですから、引退して屋敷で働いている、というわけではなさそうですよね。


 それにゾイはさっき、この方をミシュアルって呼びました。

 ……さっきジャックやボンドと話していた時、いわくありげな雰囲気で出ていた名前、ですよね?


 正直、なぜゾイたちが言いたがらなかったのか、私に会わせないようにしようとしていたのか、ものすごく納得しました。とても、その、変な人です。怪しいですし。


「さ、ハナ様。そろそろ中庭に向かおうか。虫のことなんざ気にしなくていいからね」


 すごい言われようですね……。ここまでされると逆にこの方がどなたなのか、少し説明がほしいです。それに、少しだけかわいそうな気もしてきました。


 戸惑いながらゾイと彼を交互に見ていると、彼が自己紹介をしてきましたので思わず振り向いてしまいました。

 同時に聞こえてきたのはゾイの舌打ち。なんかごめんなさい。条件反射で……!


「そりゃあないだろぉ! あ、挨拶が遅れて失礼! 僕は髑髏師団防衛部隊の施設守備隊、隊長を務めているミシュアルだ。どうぞお見知りおきを、奥方様!」

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