頼もしいギャレック邸の仲間たち⑤


 エドウィン様は私が手を振るのに小さく片手を上げてそれに応えると、あっという間に転移でその場を去って行きました。


 はぁ、かっこいい。しばし、私はエドウィン様と一緒にいられた幸せの余韻に浸りました。


「す、げぇな、ハナ様」

「予想以上だ……」


 ふと、ボンドとジャックの声が背後から聞こえてきたことで我に返ります。……そういえば、ずっといたのですよね、このお三方。


 わ、私ったら、人前でエドウィン様とちょっと、その、いちゃついてしまったような気がしますね……!? ひえぇ、恥ずかしいっ!


 ま、まぁでも、私は今後エドウィン様の妻になるわけですし、このくらいの仲睦まじさは使用人の方たちにむしろ見られるべきと言えるかもしれません。

 でも顔は熱くなるのです。ああ、落ち着きましょう私。スーハー。


「エドウィン様の仮面に触れられる人を、俺ぁ初めて見たなぁ。いやぁ、たまげた」


 ボンドの言葉にえっ、と驚きの声を上げてしまいました。普通に触ってしまいましたが、良くなかったのでしょうか?


 不安に思っていると、ゾイからは違うと声をかけられました。

 そもそも、魔圧が強くてエドウィン様ご本人に触れられる人も少ないのですって。その中でも特に仮面はものすごい魔圧を放っているので、髑髏師団の方々でさえ誰も触れられないのだといいます。あ、そういう……。


「ん? 何か気になることでもあんのかい、ジャック」

「あー、まぁ。少しな」


 確かに、ジャックは先ほどからずっと何かを考え込んでいるように見えますね。


 なんでも、ジャックは魔法部隊の隊長として働いてきたから、魔法のこととなると色々と考察してしまう癖があるといいます。職業病ですね!


「エドウィン様から放たれる魔力なんだが、ハナ様が直接触れると消えていくのが見えてな。もしかしたらハナ様は魔法が効かない体質というより、魔力を無効化してしまう体質なのかも、と思って」

「魔力を、無効化ですか? それって、何か違うんでしょうか……?」


 魔法というものが使えないということで、一切その辺の勉強をしてきませんでしたからね……。私の魔法知識は一般常識さえも微妙といったところです。何がわからないのかわからない状態ですね、申し訳ないです。


 ですが、ジャックはそれを気にした風もなくわかりやすく説明してくれました。


「つまり、ハナ様はその肌に触れた魔力を消し去ってしまうんじゃないか、ってな。これまでハナ様が直接触れた相手が何かこう、やけに疲れやすくなったなんてこと、なかったですか?」


 ……言われてみれば、両親とはあまり手を繋いで歩いたり抱っこをしてもらったりということがなかった気がします。たまにそういうことがあった場合、確かにすぐに休憩をしていたかもしれません。


 そもそも、ここ最近は誰かと触れ合うことがなかったのでちょっとわかりませんね……。


「すんませんがハナ様、少し握手してもらえないか?」

「え? はい」


 差し出されたジャックの手を握ると、ジャックは目を見開いてなるほど、と呟きました。


「我々が常に無意識に纏っている魔力が無効化されてるな。つまり、表面の魔力が全てなくなって、完全な無防備状態だ」

「ええっ!? なんだかそれって、それって、あまりよくないことなのでは!?」


 まさか自分の体質が人に悪影響を与えてしまうだなんて思ってもみませんでした。

 これまで、どれほど私はのほほんと生きてきたのでしょう。もっと勉強しておくべきでした……! うぅ、私の馬鹿!


 けれど大慌てになった私を見て、ジャックがすぐに大丈夫だと補足説明をしてくれました。


「体内の魔力はあるんだ。ハナ様が消してしまうのは触れた表面の魔力のみ。普通の生活をしている人なら微々たる量でしかないから、触れた場合は再び纏う魔力分、魔力消費が少し多くなる程度。体感的には、ちょっと疲れやすくなるだけだろう」

「そ、そうでしたか……それでも、疲れさせてしまうのは申し訳ないですからね。今後は気を付けます……」


 あまり大したことがなくて本当に安心しました。

 今思えば、エドウィン様が私の手を握って平気でスヤスヤ眠れたのも、エドウィン様だったからこそなのかもしれません。


「消す魔力の量は多かろうが少なかろうが変わらない。だからこそ、エドウィン様の膨大な魔力も一瞬で消し去ってしまえるんだろうな。ふぅむ、興味深い」


 話だけ聞くと、私ってすごいことをしていたのですね。実感なんてまったくありませんけれど。


「これは……命に代えても絶対にハナ様をお守りせにゃならんなぁ」

「間違いないな。ハナ様は唯一無二のお方だ」

「先ほどのご様子からいっても、エドウィン様になくてはならない存在であることは確かだね」


 一人反省会しつつ、改めてエドウィン様という人が私にとって大切な方なのだと再認識している後ろで、ゾイたち三人が何やら話しているみたいでした。おっと、聞いていませんでしたね。


「皆さん、どうかしました?」

「なんでもないよ。未来のギャレック夫妻がとても仲良しで安心したって話さ」

「どっ、どうしてそんな話になったんです!? もうっ、やめてくださいよぉ、照れちゃいますぅ!」


 やはり、仲睦まじい様子を皆さんにお見せするのは安心させるという意味でも大事な用ですね。ですがやっぱりどうしても恥ずかしいですっ!


 ゾイたちに生暖かい目で微笑まれ、私は今日何度目になるかわからないくねくねを披露することになったのでした。

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