魔力を持たない私⑤
「私って、魔力がなくて魔法が使えないじゃないですか。幼い子どもでも扱えるような生活魔法も使えません」
「あ、ああ、そうだね」
私が話し始めると、ゾイは急に話題が変わったと思ったのか少々戸惑ったように返事をしました。まぁ、聞いてくださいよ。
「魔力の強い人がいる度に皆さんが怖がるのを見て……いつも不思議に思っていました。私としては、その人が特別怖いとは思わないので。それはエドウィン様も同じです」
ゾイは驚いたように目を丸くしました。これだけではまだ理解が出来ないのかもしれませんね。
んー、そうですねぇ。考えている時、そうだと思い立ち、ふと視界に入ったステーキ用のナイフを手に取ります。
「ほら、ここにナイフがあるでしょう? これは食事に使うものですが……凶器にもなりますよね? ですが、これを持っているだけで人を怖いとは思わないです。私にとって、魔力というのはこのナイフのようなものなんです」
私以外の一般の人たちにとって魔力はあって当たり前のものです。だから、こんな考えには至らないのかもしれませんね。
「言ってしまえば、ナイフを持たない私にとって……ナイフを手に持つ人は全員等しく怖い存在です」
「! そう、か。みんなが凶器になり得るものを手にしている中で、ハナ様だけが何も……」
ここまで説明してようやくゾイは理解してくれたようでした。
そうなんです。魔法の威力は関係ないのですよ。
だってもし私にこの体質がなければ、威力の弱い魔法だとしてもそれは十分な脅威になるのですから。
そう考えると私って、本当に無防備で無力ですよね。
ですが、本当に私はあまり気にしていません。使えないなら使えないなりに身を守る手段というものはありますから。体質のおかげで魔法そのものは効きませんしね!
ただ、魔法で操った凶器で攻撃されれば避けられません。
使えないというだけで、他の人よりリスクはあるのだと思います。現に、魔道具もろくに使えませんし。くぅ。
おっと。今はまずこちらのフォローが先ですね。
私がニッコリ笑って見せると、ゾイは申し訳なさそうに眉尻を下げました。ああ大丈夫、大丈夫ですよ。
「それでも普段その恐怖を感じないのは、みなさんがナイフは食事に使うものだと心得ていると知っているから。だから怖くないんです」
それはつまり、信頼というやつなのです。私のような戦う術を持たない者に出来る自衛手段の一つになります。
私を心配した両親の教えなのですよね。
困った人がいたら手を差し伸べなさい、そうしたら自分が困ったときにも助けてもらえるよって。周囲の人と助け合い、信頼し合うことで自分の身を守るようにって。
ただ、ハナは人をすぐに信用しすぎると逆に心配されるようになっちゃいましたけど。いいじゃないですか、裏切られたらその時はその時です。
「魔力の多い人はナイフをたくさん持っているだけの人で、魔法の上手な人はナイフを上手に扱えるというだけの人です」
気楽に考えれば、人生楽しいですし? 怖い怖いと怯えながら過ごすより、すごい人をすごいと思いながら過ごした方がワクワクします。
私は手に持っていたナイフでステーキを一口サイズに切りました。わ、すごい。もはやナイフじゃなくても切れてしまいそうなほどお肉が柔らかいです。
「だから、怖いのはちゃんとした使い方をしない人、悪いことをしようというその考えのほうなのですよ」
私は話しをそこで終えて、パクッとドラゴンのテールステーキを口に運びました。
んーっ、柔らかくてジューシーです! かかっていたソースもどこかフルーティーで最高ですーっ!
頬に手を当てて美味しさを堪能していると、ゾイはようやく肩の力を抜いて笑ってくれました。うんうん、ゾイもその表情の方がずっと素敵ですよ!
というか、魔法だけではない話ですよね。剣を持って民を守る騎士様も、強いと言うだけで怖がったりはしません。それはその騎士様が守るために剣を振ることを知っているからですから。
技術も凶器も、全ては使う人次第ということですね。
結論。怖いのは怖いことをする人であって、凶器や魔力そのものや、技術を持っていることではないってことです。
「良い育てられ方をしたんだねぇ、ハナ様は。ご両親や教育係が素晴らしい人なのだろうね」
「ええ、それはもう! ただちょっと、心配性が過ぎる気はしますけれど。今の目標は、うちの者たちにエドウィン様のかわいさを知ってもらうことです!」
そんな教えをしてくれた両親たちでさえ、あれほどの怯え方をしているのですよね。
それを考えると……やはりエドウィン様の恐怖の影響は、私の楽観的すぎる考えでは片付けられないほどの衝撃だったのでしょう。
なかなか難易度は高そうですが、諦めませんよぉ!
「か、かわいさ、かい? かっこよさ、ではなくてかい」
「もちろんかっこいいですよ! ですがそれ以上にかわいいのです! あ、これを言うとエドウィン様は拗ねるので内緒ですよ」
「え、エドウィン様が、拗ねる……!?」
私が力説すると、ゾイは今日一番の困惑した表情を見せました。
まぁいいでしょう。エドウィン様が最強で最高にかわいいことは、私がよく知っているのですから。
ふふっ、夕食をご一緒するのが今から楽しみですね!
まだ昼食の途中だというのに、すでに気持ちが夕食に向いてしまう私なのでした。おいしいものは正義なので仕方ありませんね!
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