恋する乙女パワー①
ついプロポーズをしてしまいました。愛が溢れてしまったので仕方ありませんね。せっかくですのでこのテンションのまま、まいりましょう。
「私、決めました!」
「な、何を……」
ズイッと身を乗り出すと、エドウィン様がそれに合わせて後ろに仰け反ります。
ああ、顔を真っ赤にしたまま戸惑う表情もかわいいです。
「エドウィン様を溺愛します! もう思いっきり甘やかしますから!」
「なっ、なんでそうなる!?」
この不器用で、甘え方を知らない完璧超人な未来の旦那様を、私は人生をかけて愛します! 私はたった今、そう誓ったのです。
だってそうでしょう? こんなにも人を寄せ付けない魔圧を放ってしまうのでしたら、人に頼ることもあまり出来ていないのではないかと思うのです。
大人とはいえ、人が恋しくなることくらい誰にだってあるはず。頼りたいと、甘えたいと思う時だって! それを思うとギュッと切なくなってしまったんですよ。
だからその分、婚約者である私が愛を贈ろうと思うのです。
たくさん甘えてもらいたい! ギューッてしたい! かわいいを愛でたい!
あ、本音が漏れ出てしまいそう。
「す、少し待ってくれ。あ、いや。婚約が嫌とかではなく、話を受けてくれて……受けてくれて、でいいんだよな? その、嬉しく思っている。ただ、君が俺の何を気に入ってくれたのかがわからないんだ」
「全てですっ!」
「落ち着いてくれ、頼むから」
エドウィン様が困りきったように眉尻を下げて両手を軽く前に出しました。おかげでようやくハッとなります。
少々、自分本位に盛り上がり過ぎてしまったようですね。危ないです、欲望が駄々洩れになるところでした。スーハー。落ち着きましょう。
よくよく考えてみれば、こんなに好き勝手なことを言う、たかだか男爵令嬢相手にずいぶんと寛大ですよね。懐の大きさがわかるというものです。
ああ、かわいいのに大人でスマートで紳士だなんて……!
おっと、落ち着くんでした。今そう言われたばかりではないですか。私の愛は止まりませんが、なにやらエドウィン様はかなり深刻な表情です。ちゃんと真面目にお聞きしなければ。
「その。俺は、この見た目だ。少しも男らしくないだろう……?」
そんなっ! 奇跡のようなお姿ですのに、もしやそれを気にされて……?
いえ、悩みは人それぞれ。特に容姿に関しては誰もがコンプレックスを持っているものですからね。
私だって、もっと髪がサラサラだったら朝の準備に手間取らないのにと何度思ったことか。
それと同じように、いえ、もっと深刻にエドウィン様はお悩みだったのでしょう。
けれど、完璧に思える方がこのように悩んでいると知れて、失礼ながら少しだけ親近感が湧いてしまいました。
さて、幼い頃からご自分の容姿を気にしていらしたらしいエドウィン様は、それはそれは血の滲むような努力をされたと言います。
強くなれば男らしくなれると思い、ひたすら剣術の訓練や筋トレを続けたのだと。しかし筋肉はつくものの、ガッチリとした体型には体質なのかどうしてもなれなかった、と。
ならば賢くなれば少しは顔つきも凛々しくなれると思い、必死で勉強をしたそうです。しかしいくらやっても成績が上がるだけで外見には少しも影響がなかった、と。
最終手段として、魔法の腕を上げて少しでも威厳のある姿を幻で見せることにしたのだと言います。すると今度は生まれ持った膨大すぎる魔力と、緊張すると抑えられない圧によって威厳のあり過ぎる幻影を生み出すようになってしまった、と。
なるほど、そこが発端だったのですね……。
「我ながら、馬鹿げているとは思うんだ。だが、俺はこの国の国境を任されている身。見た目だけで侮られては付け込まれてしまう。簡単に落とせると思われては襲撃が絶えなくなるからな。これは領の平和のためにも重要なことだった」
確かに、ただでさえ狙われやすい土地ですからね。領主様がこんなにかわいらしいと知れ渡れば、今よりもずっと他国に襲撃されていたかもしれません。
まぁ、彼なら難なく返り討ちにしそうではありますが、無駄な被害は出したくありませんよね。
ただ、エドウィン様の幻影の印象は強すぎたのです。おかげで、後になって姿を変えることは出来なかったのだと。
途中で変えてしまえば、すぐにそれが幻だとバレてしまいますもんね。そうなるとやはり侮られて余計な襲撃に繋がりかねませんし。
「領主として世代交代をしたばかりの頃は、とにかく必死だったんだ。何が正解かもわからず手探りで……侮られてはならないと、そればかりに気を取られていた。冷静になった今なら、他にもやりようがあったのではと思う。すぐにでも誤解を解けばいいとも思うのだが……」
あまりにも幻と実際の姿が
ですが、本人ではないのでその葛藤や悩みを全て理解することなど私には出来ないでしょう。少しでも寄り添えると良いのですが。
とはいえ、昔から住んでいる領民は彼の本当の姿を知っているのだとか。子どもの頃を知っている人たちってことですよね。そういう人たちの前や屋敷の者たちの前では素顔を見せられるのですって。
ああ、良かった。ちゃんと息のつける場所があるならまだ安心ですね。
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