髑髏領主の仮面の下にはとってもかわいいお顔があります!〜魔力なし庶民派令嬢は溺愛し、溺愛される〜
阿井 りいあ
恋は意外に突然に①
私はこの度、ギャレック辺境伯ことエドウィン・ギャレック様の婚約者として選ばれました。
統率力があって剣の腕にも長けており、さらには頭脳明晰で魔法の腕もトップクラス。
王家直属の護衛隊長にならないかとスカウトされたこともあったとか。けれど自領の守りを優先することこそ国のためになると、ギャレック領から出ることは一度もないのだと聞いています。
実際、あの地はスタンピードを起こした魔物が押し寄せてきたり、他国からの敵襲が来ることもある危険な土地ですからね。かといって、領内が危険であるという話は一切聞きません。
なぜなら、それらをいつもあっさりと一掃してしまうのがギャレック辺境伯様が率いる精鋭集団だからです! 通称スカル師団と呼ばれていますが、理由は追々わかるでしょう。
そんな方ですから、彼は領民からの信頼も厚いと聞きます。領地経営の手腕も素晴らしいとのこと。外からの脅威はあれど、ギャレック辺境伯様がいらっしゃれば領内は豊かで平和。もう非の打ち所がない素敵な方ですよね。
そんな方の婚約者に、しがない男爵令嬢である私が選ばれたわけです。ええ、とても釣り合いません。申し訳なさすぎます。
ではなぜ、婚約者に私の名が上がったのか。疑問ですよね?
ギャレック家に嫁ぎたいというご令嬢は後を絶たないと思うでしょう?
そう。理由があるのです。辺境伯エドウィン・ギャレック様にはこんな噂がありました。
冷酷無慈悲。非情で残酷。誰にも心を開かず、寡黙で威圧的。
常に魔力を纏っており、その力強さと冷たさに誰もが気圧されてしまうらしいのです。聞いた話によると、鍛えている騎士様でさえ丸一日と一緒にいられないとか。
しかも彼は常に恐ろしい髑髏の仮面を被っており、誰もその本当の姿を見たことがないというのです。そう、スカル師団という呼び名の所以はここからきています。かくいうギャレック辺境伯様も、髑髏領主、髑髏騎士などと呼ばれて恐れられているのです。
その実力もあって、きっと鬼か悪魔、もしくは本当に仮面と同じような顔をしているのだろうと噂だけが一人歩きしている状態なのですよね。
おかげで何度か浮上したらしい婚約話も、その都度ご令嬢たちがギャレック辺境伯の恐ろしさに耐えきれず破談になるのだとか……。
良き領主と言われているわけですし、本当にそんなに酷い方でしょうか? とも思いますけどね。でも実際に、恐ろしすぎて意識を失ったという方がたくさんいらっしゃるわけですから全くの嘘というわけでもなさそうです。
しかし、さすがにそろそろ身を固めなければ、ということで選ばれたのが私、元気だけが取り柄のハナ・ウォルターズ十六歳というわけでして。
まさか私のような貧乏貴族の娘が選ばれるなんて思ってもみませんでしたよ。貴族といってもほぼ一般人ですよ、私。
薬師であるお父様が頑張って、薬の開発や国のための貢献をしてくださったからこそ私も貴族を名乗れているだけで、ぶっちゃけて言えば街にあるちょっとだけ大きな家に住む、言葉使いが少し丁寧なだけのただの小娘なんですよ。
朝早くに起きて家事と仕事を手伝い、少しでも安く食品を入手するため朝市に出掛けるような生活ですよ? そりゃあ一般家庭よりは良い暮らしをさせてもらっていますし、一応それなりの教育は受けさせてもらっていますが、それらのマナーを必要とする場にはほとんど出たこともありません。
え、本当に大丈夫……? 私、辺境伯家の嫁として務まるんでしょうか。無理じゃないですか?
と、とにかく! その点も含めて直接話し合うべく、今日は初めてギャレック辺境伯様にお会いするのです。めちゃくちゃ緊張しています!
特別な時にだけ着るドレスを身に付け、軽く化粧を施し、今は落ち着きなく自室で待機中です。おかげであれこれ考えてしまうのですよね。
豪胆な娘、物怖じしない娘、逆に何でも言うことに従う大人しい娘……ありとあらゆる娘がギャレック辺境伯様と対面したそうなのですが、毎回とても恐ろしいお姿の前に驚き、魔力の威圧感に負け、ものの数分で破断となるのだそうで。
ひぃ、怖い。私が耐えられるのでしょうか。だって怖がりなんですよ、私。
ただ、数多いる女性の中でなぜ私が選ばれたのか、その理由はわかっています。
それは、私が生まれつき魔法が効かない体質だから。全部、無効化してしまうんですよねー、これが。不思議ですねー。
そのため、怪我も病気も自然治癒を待つか薬を使うかしなければなりません。治癒魔法なら一瞬で楽になるというのに……。
まぁ、怪我はともかく病気になることは滅多にないんで別にいいんですけど。お父様の薬があれば大体すぐに治っちゃいますし、治療魔法は怪我や病気が重いほどあまり使わない方がいいとも言われていますしね。でなきゃ、我が家の商売上がったりですよ。
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