手繋ぎ初デート③
気合いを入れて階段を下り立った私ですが……今、エドウィン様と向かい合うように立ったまま微動だに出来ずにいました。エドウィン様もまた、ピクリとも動かず黙ったままで、なんとも言えない雰囲気が漂っています……!
まぁ、私が動けないのはひたすら緊張しているからなのですが。
だって素敵すぎるのですよ! 遠くからうっとりと眺めるだけで幸せだというのに、目の前に立っていらっしゃるんですもの!
そんな素敵な方とこれからデートなんですよ? しかも手を繋いで!
ああっ、かわいくてカッコよくて素敵すぎます。クラクラですよ、んもう。
楽しもうと決意したはずなのに、目の前にするともう、もう、心臓が破裂しそう。
「……エドウィン様。いつまでそうしているおつもりですか」
「う、わ、わかっている」
そんな沈黙を破ったのはマイルズさんの冷たい声でした。とてもにこやかに微笑んでいらっしゃるというのに、冷ややかな声色……。ギャップで風邪をひきそうです。
けれど、そのおかげでエドウィン様はようやく動いてくださいました。そのことにホッとして私もチラッと彼に目を向けます。うっ、赤面したお顔もかわいいっ!
「ハナ。その……服は気に入ったか? 袖を通すのは今日が初めてだと聞いたが」
「そ、それはもちろん! とても着やすくて動きやすいですし、デザインも素敵で……! ただ、こんなに良いものを着たのは初めてなので、あんまり似合っていないんじゃないかって」
「っ、似合っている!」
「!?」
もじもじしながら答えていたら、突然大きな声が響いたのでビックリしてしまいました。大声を出した当の本人は気まずそうに目を泳がせています。自分でも声が大きすぎたと思っていらっしゃるのでしょう。かわいい。
「い、以前にも言ったが、ハナは……魅力的な女性だ。そう自分を卑下するな」
「は、はい。その、ありがとう、ございます……」
だからなのか、続けられた声はとても小さいものでした。褒めてくださったこともあって、余計に恥ずかしさで顔が熱くなってしまいました。
エドウィン様の囁き声で褒め言葉だなんて、殺傷力が高いのですよぅ……!
おかげで、またしても二人して向かい合ったまま沈黙するという無駄な時間を過ごすことになりました。
「ああ、もうじれったいね! さっさと出かけて来な! エドウィン様も、いい加減エスコートしないかいっ!」
それが耐えられなかったのか、ゾイが足をダンッと踏み鳴らして叫びます。
わぁっ、び、ビックリしました! エドウィン様も目を丸くしてらっしゃいます。あのマイルズさんも驚いているご様子。これは珍しいものを見させてもらいましたね。ゾイがそんな風に言うのは珍しいのかもしれません。
ゾイはエドウィン様をとても尊敬していますが、我が子のように思っている部分もありそうでしたからね。今は後者の方が強く出たのでしょう。なんだかおかしくなってきました。
私とエドウィン様は互いに目を合わせると、同じタイミングでクスッと笑います。エドウィン様は片眉を下げて微笑みながらスッと手を差し出しました。
「では、ハナ。……手を」
「はい!」
元気に返事をし、勢いに任せて自分の手を重ねます。恐る恐る動いていたら、余計に恥ずかしくなりますからね!
私が躊躇なく手を乗せたことで、エドウィン様も私の手を握ってくださいました。その時さらに笑みを深めてくださったので、キュンと胸が鳴ります。
こ、呼吸を忘れてしまいますから、お手柔らかにですよぅ!
「ああ、これはすごいですね。エドウィン様の溢れ出す魔力が一気に消えました。ただその間も溢れ続けていますから、まったくなくなるわけではないようですが」
一方、マイルズさんは別の観点から驚きの声を洩らしています。そうでした。手を繋ぐ理由は、エドウィン様の魔力が外に溢れないようにするためですもんね。確か、私が触れた部分の魔力は消えるんでしたっけ。
場合によっては、魔力の消費が激しくなって疲れてしまうんですよね……。エドウィン様の規格外の魔力量なら大丈夫だとは思いますが、やっぱり心配になってしまいます。
「あ、あの。魔力を消費しすぎて疲れてしまったら言ってくださいね? すぐに手を振り払ってくれていいですから」
私がそう声をかけると、エドウィン様は呆気に取られたようにその動きを止めました。へ、変な気遣いをしてしまったでしょうか。
「誰かにそんな心配をされたのは初めてだ。ハナ、ありがとう。だが大丈夫だ」
けれどエドウィン様はとても嬉しそうに頬を綻ばせます。またしてもキュンと鳴る私の胸。ああ、今日だけで心臓がかなり鍛えられそうです。
「むしろ、とても楽だ。溢れすぎないように気を張らずに済む日が来るなんて。振り払うだなんてとんでもない。絶対に離さないよ」
「そ、そう、デスカ……!」
私を離さないのではなく、手を、ですからね! わかってはいても、その言葉の破壊力は抜群です。
ああああ、今すぐ両手で顔を覆いたいのに手を繋いでいるので出来ないジレンマ!
でも、心底安心したように息を吐くエドウィン様を見ていたら、私も肩の力が抜けました。
良かった。私のこの体質が、エドウィン様の助けになれているようです。そう思ったら嬉しくて仕方ありません。
「これなら、街の者たちにも影響はないでしょう。どうか、楽しんできてくださいませ。エドウィン様、ハナ様」
「ああ。留守を頼んだぞ、マイルズ」
こうして、エドウィン様と私はようやく屋敷を出たのでした。いよいよ、町歩きデートですよぉ!
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