手繋ぎ初デート②


「ほ、本当に似合ってますかぁ?」

「もちろんだ! まったく。心配性だね、ハナ様は」


 ついにやってまいりました、初デートの日! 先日、注文したお洋服を身に纏い、私は姿見の前で不安になっております。


 だ、だってこんなに上質な布を使った服なんて初めてなんですもの。絶対に服に負けてますから、私。

 ただ私の要望通り、そして町歩きをしてもそこまで目立たないデザインではあります。


 しかしですよ、誰もが一目見ただけで良家の出だとわかるお洋服なのですよ、これ。

 私が家から持ってきていた余所行きの服よりも遥かに上等な服です。地味な私は、服に着られているようにしか見えないのでは?


「ほら、しゃんとしな! 堂々としていたらそんなこと気にもならないさ。ギャレック辺境伯夫人になるんだろう?」

「はっ、そ、そうですよね! エドウィン様のお隣に立っても恥ずかしくない振る舞いをしないと!」


 見た目を変えるのには限界があるのでどうしようもありませんが、堂々としてみせることくらいは私にも出来るはずです。ビクビク、おどおどしていたらいけません! そんなものは心の奥に引っ込んでいてもらわないと。


「で、では、参りましょう!」

「……今度は戦にでも出るのかい、って顔だね。まったく、面白いお嬢様だよ」


 ゾイには呆れられてしまいましたが、実際これから戦に出るようなものですからね! 初デートは乙女の戦ですよ!


 ドキドキしながら部屋を出て、ゆるやかなカーブを描く階段を下りていくと、すでに玄関ホールにエドウィン様が待っていらっしゃいました。

 そのあまりの素晴らしい立ち姿に思わずぼうっと見惚れてしまいます。足も止まってしまいましたね。すみません、今はエドウィン様を見るのに忙しいのです。


 街を歩く普通のカップル、という体で向かいますので、当然エドウィン様は髑髏の仮面を外していらっしゃいます。

 艶やかなストロベリーブロンドの髪、白い肌、大きな淡い水色の瞳。スラッとしていて、小柄でありながら立ち姿からは只者ではないオーラを感じます。


 服装もラフなものではありますが、布は上質なもので気品が漂っていますね。その点については私の着ているものと大差はないでしょう。着ている人物が天と地ほどの差なのですが。

 黒い革製のベルトとブーツが全体を引き締めていて、かわいらしいエドウィン様をキリっとカッコよく見せてくれています。


 ああっ、素敵すぎます……! こんな方と今からデートするなんてっ!

 ……呼吸を忘れて倒れてしまったらどうしましょう。そんなもったいないことは出来ませんね、気合いで持ち堪えなくては。


「……大体何を考えているのかわかるが、さっさと足を動かしな、ハナ様。エドウィン様が不安そうに見てるよ」

「はっ!」


 ちょっと夢中になりすぎたようです。急いで向かいませんと!

 そうして慌ててしまったからでしょうか。鈍臭い私はうっかり階段を踏み外してしまいました。あわわわっ!


 けれど、私が階段を転げ落ちたり尻餅を着いたりすることはありませんでした。気付けば身体が浮いていて、目の前にはゾイのお顔が。


「まったく、そうなると思ったよ」

「ご、ご、ごめんなさいー!」


 どうやらゾイが咄嗟に私を抱きかかえてくれたようです。抱き上げられたことにも気付かないほどの素早さでしたね。さすがは髑髏師団の……えーっと、歩兵連隊の元隊長さんです。


 それにしても、軍服にフリルエプロンのたくましいおばあ様にお姫様抱っこをされながら階段を下りるというのはなんとも不思議な気持ちになりますね……。


「あ、ありがとうございます、ゾイ」

「お安い御用さ。ただハナ様は軽すぎるね。もっと食べさせないと」


 バチン、とウインクしながら私を下ろすゾイは本当にカッコいいですね! 言う台詞も男前です。

 ゾイが専属メイドになってくれて本当に良かったと思います。


「あ、あー……エドウィン様。あたしは余計なことをしてしまいましたかねぇ……?」


 と、急にゾイの勢いが萎れていきましたよ? どうしたというのでしょう。余計なことだなんて、そんなことは絶対にありませんのに。


「……いや。良くハナを守ってくれた」


 そんなゾイの言葉に、エドウィン様もそうおっしゃってくれています。

 ……が、なぜでしょう? どことなく不機嫌そうに見えるのは。気のせい、ではないですよね。ゾイもマイルズさんも引きつった笑みを浮かべていますし。マイルズさんはどちらかというと呆れた様子、でしょうか。


「ハナ様、心配はいりませんよ。エドウィン様はただ、ご自分がカッコよくハナ様をお守りしたかったと拗ねているだけですから」

「っ、マイルズ!」


 えっ、えっ? えぇーっ!? そんな、そんなかわいらしいことをエドウィン様が!?


 まさかそんなはずはない、とは思いましたが、顔を真っ赤にしてマイルズさんを睨むエドウィン様を見ていたらそれが事実なのだと思ってしまいます。

 自然と顔が熱くなり、私は両頬を手に当てました。ついでににやけてしまう顔を押さえてしまいましょう。ううっ、エドウィン様がかわいすぎるっ!


「……久しぶりに素顔を拝見したが、やはり整っていらっしゃるねぇ。昔より顔色も良い。元気そうで何よりだ」


 そんな時、背後でゾイがしみじみとそう呟く声が聞こえてきます。チラッと後ろを見ると、ゾイは嬉しそうに微笑んでいました。

 そうですか、素顔を見るのは久しぶりなのですねぇ。ゾイの安心したような、優しい顔をするのを見ていたら、なんだか私も嬉しくなってしまいます。


 これからは少しずつ、みなさんに素顔を見せる機会が増えてくれたら、と改めて思いますね。その第一歩として、今日のデートはしっかり楽しみますよー!

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