手繋ぎ初デート⑤
常にドキドキはしていましたが、ひたすらお喋りを続けることでいくらか落ち着いてきたような気はします。いえ、落ち着いたのではなく慣れてきたのかもしれません。
「ここは人が多いのですね。王都ほどではありませんが、思っていた以上に賑わっているのでビックリしました」
「大通りは特にそうだな。この通りには大体の店が揃っているから」
絶え間なく質問を繰り返している私に、エドウィン様は嫌な顔一つせず丁寧に教えてくださいます。直接足を運ぶのは初めてだそうですが、魔法を使って見てはいるそうなのでとてもお詳しい……。
でも、その目はキラキラと輝いています。まるで初めて見たかのように。いえ、実際初めて見ているのですよね。直接、その目で。
なんだか、私も嬉しくなっちゃいますね。時折、商品を手に取ってまじまじと見る様子には心温まります。
「あ、そういえばエドウィ……え、エド。ギャレック領にも人通りの少ない場所はあるのですよね? 近付いたら危険な場所というのも、あるのでしょうか」
まだエドと呼ぶのには慣れないですね……いえ、今日だけで慣れてみせますとも。もっとエドウィン様と仲良くなるためにも。
少し戸惑ってしまった私を見て小さく微笑んだエドウィン様は、すぐにその表情を真剣なものに替えて顎に手をやり、何やら考えているご様子。
デート中に聞くようなことではなかったかもしれませんが、この街に住む上で危険な場所は知っておかないといけませんからね。
王都でも人気のない路地は怪しい人たちの巣窟みたいなところがありましたし。人の多い場所の治安は保たれているのですが、警備の方の目が届かないみたいで、そういう場所はいくつかあったのですよね。
もちろん、私は一切近付いたことはありません。怖いですし!
「……いや。人の少ない場所はあるが、危険な場所はない。だが上品ではないな。絶対に安全とも言い切れないから、あまり路地裏などには近付かないほうがいいのは確かだ」
「上品では、ない……?」
その言い回しがなんだか不思議で、つい首を傾げてしまいます。そんな私を見て、エドウィン様は意を決したように口を開きました。
「ハナは俺の婚約者だ。この領地をちゃんと知ってもらうためにも、下手に誤魔化さず正直に話そうと思う。が、怖かったら言ってくれ」
「わ、わかりました! どんとこいですよ!」
隠さずに伝えてくれる、というのが何より嬉しいです。エドウィン様の誠実さが伝わりますね。
でも、怖かったらってなんでしょう。そんなに恐ろしい事情があるのでしょうか……。ちょっとだけ緊張しますね。ドキドキ。
「裏の世界というのはあまり良くないイメージがあるかもしれないが、必要な世界でもある。ギャレック領にもあるし、そういった者たちの溜まり場はある」
「えっ、それでも危険ではないのですか……?」
それに、それを知りながらエドウィン様は黙認しているということですよね? あ、でも必要な世界なんでしたっけ。
……確かに、綺麗な部分だけでは成り立ちませんよね。特にここは辺境の地。危険な魔物だけでなく、他国からの刺客が頻繁に訪れるような場所だと聞いています。
あとは、他の町から追い出された元犯罪者が流れ着く場所だという噂もあるんでしたっけ……。どこまでが事実なのかは知りませんが、もしそれが本当なら乱暴な方もこの街にはたくさん住んでいるってことですよね? 今のところ、そんな雰囲気は感じませんが……。
「
フッと口角を上げたエドウィン様の、その言葉だけで全てを察しました。
なるほど、なるほど。つまり、裏の世界にもエドウィン様の名前が通用するということなのでしょう。表でも裏でも、このギャレック領を牛耳っているのはエドウィン様なのですね?
裏の情報網も把握することで、あらゆる事態に対応出来るというわけですか。荒くれ者がいても、あっさり力でねじ伏せられるのかもしれません。そういった方たちを裏の世界で働かせている、ということも考えられますね。
どこまで有能なのでしょうか、この方は。私の婚約者様がすごい人すぎてどうしましょう。嫁になる女はこんなにも平凡ですのに。
「逆に、領民が危害を加えられたとしたら、それは制裁対象ということになる。わかりやすくていい」
ああ、悪いお顔……それもまた素敵です!
しかしどうやらギャレック領の裏側は、ちょっと私にはついていけない世界のようです。でも、知る必要があるというのなら勉強はしておきたいところですね。ええ、妻になるのですから当然です。ビビってなどいられませんよ!
ただ、自分に出来ないことについては正直に白状いたします。見栄を張ったって意味がありませんからね。
「私はそちらの世界ではお役に立てなさそうですから……まずは表の世界を知っていこうと思います!」
「ハナ……怖くないのか」
エドウィン様が心配そうに私の顔を覗き込んできます。ふふ、そんなのは答えが決まっているのですよ。
「エドが治めているのでしょう? それなら怖くありません!」
「……敵わないな、ハナには」
それはこちらのセリフですよぅ。悪い顔も、困った顔も、どんなお顔を向けられても私の胸はときめくのですから。それに裏の世界を牛耳っているという事実も、素敵でカッコいい要素にしか思えないのです。
エドウィン様と知り合う前でしたら怖がっていたかもしれませんが、恋の力は偉大です。私の方こそ、一生エドウィン様に敵いそうにありません!
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