冒険者たちの衝撃 ※コレット視点④
「良かったぁ、また会えて! ちゃんとお礼も言えずにお別れしてしまったので、ずっと気になっていたのですよ!」
「は、ハナ様……? あ、あの、大丈夫なんですか?」
ハナ様は美少年の雰囲気や纏う魔力に気付いていないのかな……当たり前のように無邪気に話しかけてくる……!
あまりにも普段通りすぎて、私もリタも混乱しっぱなしだよぉ!
「大丈夫って、何がです? あ、あの時は泣き疲れて寝ちゃっただけなので大丈夫ですよ! ごめんなさい、本当に失礼なことをしちゃって……」
「い、いえ、そうではなく。あの、そこの美少……男性に騙されている、とかではない、ですか……?」
もはや何を言えばいいのかわからず口を開けっぱなしにしている私に代わって、リタが聞きにくいことをズバリと聞いてくれた。
うっ、美少年の視線が痛いっ。でもかわいすぎる容姿のおかげでいくらか怖さも和らいでいるかもしれない。ちょこっとだけ。
……っていうか本当にかわいいな、この人。その辺の女子なんて比にならないほどのかわいさだよね。正直、隣に立ちたくないほどかわいい。
それでも男の人だってことはわかる。だって骨格とか筋肉のつき方が違うもん。なのにこんなにかわいいなんて、すごいよねぇ。ここまで完璧な美少年は初めて見たよ。
「騙され……? 何を言っているのですか?」
おっとっと。見惚れてる場合じゃなかった。リタに質問されたハナ様は特に怒るでもなく、意味が分からないといったご様子、だね……。
うーん。私たちに髑髏領主様と結婚するって話したことを忘れているわけはないだろうし、その上で一切焦ることもないなんて。ほんと、どういうことだろう?
ただ、やましいことなんて何もないらしいことはわかるんだけど……。
「いや、ハナ。この二人は……
「あ」
リタも黙りこくってしまったその隙に、今度はお二人がコソコソと何かを話し始めちゃった。何を話してるんだろ? 何か良からぬ企みを?
……とも思ったけど、なんだか困惑しているのは美少年の方。ハナ様は終始にこやかで、時折「大丈夫」や「これはむしろチャンスですよ!」という声が聞こえてくる。
ちょっと待って。チャンス、とは? またしてもよくわからない不安が押し寄せてくるんだけどぉ!?
もはやこの先どうしたらいいのかわからなくなっている私とリタを余所に、さらにしばらく話し合いを続けるお二人。そしてついに、ハナ様がクルッとこちらに向き直った。
というか、こんな状況でもまだ手を繋いだままって……いや、もう気にしたら負けな気がしてきた。大人しくハナ様からの説明を待つのが一番かも。
「心配をかけてごめんなさい。そりゃあ事情を知るお二人からすると、私が知らない男性と二人で出かけているのを見たらビックリさせてしまいますよね? でも、大丈夫です。お二人の心配するようなことは何もありませんよ」
「で、でも……」
ハナ様は穏やかに微笑んで丁寧に説明してくれる。でも。そう、「でも」なんだよ! 何が問題かってずーっと手を繋ぎっぱなしなところだからっ!
だけど、続けられたハナ様の言葉には、私もリタも納得するしかなかったのだ。
「だって、この方こそがエドウィン・ギャレック様……私の、こ、婚約者様ですもの! キャッ、誰かに紹介するのってやっぱり恥ずかしいですねっ」
「へ」
「え」
ええええええええっ!?
少しの間を置いて叫んだ私とリタの絶叫は、誰もいない路地裏に響く前にエドウィン様の魔法によって消音される。
うぅっ、驚きたいのに物足りないぃっ!! でも叫んだせいで人が集まったら困るもんね! わかってるけどぉ!!
大パニック状態の私とリタに対し、ハナ様は根気強く、そして終始ニコニコと説明を続けてくれた。
主に、彼がどれほどかわいくて素敵でカッコいいかという話だったけど。この美少年が本物の髑髏領主様だという説明がほとんどなかったけど。
ま、まぁ、愛は伝わった。ものすごく。
どうしても信じられなくて、ついつい本当なのかとチラッと向けた美少年を見てしまう。
だけど、彼が戸惑い気味に小さく頷いたので間違いないんだと思う。うわ、かわいいっ! ハナ様が興奮気味になるのもわからなくもないかも!
いや、ちょっと待って。髑髏領主様ってもう二十七、八歳くらいじゃなかった? み、み、見えない……! ハナ様と同年代にしか見えないよぉ!?
少しずつ私とリタが落ち着きを取り戻し始めたのを見計らって、今度は髑髏領主様が説明をしてくださった。
ハナ様の体質のおかげで、常に放ってしまう魔圧を抑えることが出来るということ。だから今日は、ハナ様に協力してもらって初めて街を歩いていることを。
だから手を離さないんだ……! そのおかげであの恐ろしい魔圧を感じずに済んでたってこと? ハナ様っ、命の恩人んんんっ!!
そ、そっか……髑髏領主様は、魔圧で街の人たちを怖がらせないために、一度も街歩きをしたことがないんだ。領主様なのに。
全然、知らなかったな。こんな切ない事情があったなんて。
「じ、実はあたしたち……ハナ様が見知らぬ方と仲睦まじいご様子を見て、その、う、浮気なんじゃないかって最初は思って。でも、ハナ様がそんなことするわけないって。何か事件に巻き込まれたのだとしたら、絶対に助けなきゃって。そのっ、本当に申し訳ありませんでした!」
「ごめんなさいっ!!」
こんなにも正直に話してくださったんだもん。私たちも正直に白状すべきだよね。リタがきちんと謝罪したのに合わせて、私も思いっきり腰を曲げて頭を下げた。
本当に、なんて酷い勘違いをしちゃったんだろう。うぅ、すっごく恥ずかしい。モルトとローランドに笑われそうーっ!
「そう、か。ハナのために、わかっていて無謀な尾行を……」
「お二人とも、私のために……! 私の方こそ心配させてしまってごめんなさいですよ! どうか頭を上げてください!」
こんなにも失礼な勘違いをしたというのに、お二人はちっとも怒ったりしなかった。それどころか、驚くべきことに私たちの方が謝罪されてしまう。え、ちょ、待って!
「すまなかった。無暗に怖がらせてしまったな」
「ひぇっ、そ、そんな! 髑髏領主様が、ああああ謝ることではっ!!」
「いや。俺たちのことを知っている君たちのことを失念していた、俺の落ち度だ」
「はわわわわっ!」
さらに、お詫びとして今度屋敷に招待するとまで言い始めたんだけど! ま、ま、待って。そろそろ一般人には許容量オーバーですぅっ!
「エドウィン様はちゃんと謝れる領主様なのです。ふふっ、素敵な方でしょう?」
「は、ハナ……!」
そんな私たちをよそに、ハナ様は相変わらずかわいらしくコロコロ笑いながら惚気ていらっしゃる。照れる髑髏領主様もかわいい。
しっかし、ハナ様はブレないなぁ。は、ははは……はぁ。
とにかくっ! 良かったよぉぉぉ!!
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