冒険者たちの衝撃 ※コレット視点③


 尾行を続けて少したったけど、お二人に不審な点は見られない。ただただ仲良くデートを楽しんでいるだけ。


 それが一番の大問題なんだけどね! くぅ、ハナ様ぁ……髑髏領主様に向けていたあの愛情は嘘だったんですかぁ……? 二人の様子を見る度に、そう思って悲しくなる。


 もし、もしも本当に浮気だったとしたら。間違いなく悪いのはあの美少年だよね。見た目に騙されて、うまく言いくるめられているのかも。もしかしたら、魔法で幻覚を見せられて……いや、それはないか。ハナ様には魔法が効かないんだもん。


 でも、もしかしたら催眠術とかそういうのにかかってるのかもしれない。そうとしか思えないし、そう思わないと悲しくて泣いちゃう! ハナ様が裏切るようなこと、するわけないもんっ!


「もしあの美少年がとんでもない悪人だったら……リタ、今のうちに髑髏師団に連絡を入れた方がいいかな」

「そうだね。でも、もしそうじゃなかったら冤罪で迷惑をかけることになる。それにあの様子を見ただけじゃ、こっちが疑われるよ」


 それは確かに。だって二人はただデートを楽しんでいるだけだもん。疑ってかかっている私たちの目から見ても、ただのデートにしか見えないし。

 ハナ様が髑髏領主様の婚約者だなんて情報も、発表前に私たちが漏らすわけにはいかないし、素直に話したところでそれだって疑われる可能性が高い。


 あの美少年を捕まえるには、決定的な証拠ってやつが必要になる。もしくはその現場を目撃するとかね。

 うぅ、でもあの美少年、本当にかわいい……悪人だなんて思いたくないよぅ。ま、人は見かけで判断出来ないし、甘い考えは捨てるけど!


「何かあったらあたしが時間を稼ぐ。だからその隙にコレットが髑髏師団に連絡を入れに行って」

「ん、わかった。でも、無茶はしないでね?」

「わかってる」


 そう、そうだよ。大丈夫。もし何かがあっても、この街で犯罪者は絶対に捕まるんだから。だって、髑髏師団がいるんだもんね!

 ただ、犠牲をゼロには出来ないこともある。髑髏師団の皆さんだって、万能じゃないんだから。もうほぼ万能みたいなものではあるけどさ。


 はぁ、怖い。明らかに自分たちのレベル以上のことをしてるよ、私たち。いくらギャレック領の外では実力者として見られていても、この街ではヒヨッコでしかないんだから。

 それを忘れないためにも、私たちは中級冒険者を名乗るようにしてた。一般レベル的にはSC級は上位だけど、勘違いしてはいけないから。


 こうして、自分達よりも明らかに強そうな相手と出会うとつくづく実感する。私たちはやっぱり、中級冒険者でしかないんだって。

 もっと平和に暮らしたかったよ。こんな大きな案件に首を突っ込むべきじゃないってわかってる。


 それでも。私はハナ様のことが大好きだから。髑髏領主様のことも尊敬しているから。あのお二人を推しているから!

 だから、ハナ様に悪の手が伸びているのを見て、放っておけるわけがないでしょっ!


「コレット。段々、人通りの少ない道に向かってる。警戒して」

「そうだね……気を引き締めよう」


 雲行きが怪しくなってきた。嫌な予感が当たってしまうのかな……。怖い、でも逃げたらダメ。人のいない場所になんて連れ込まれたら、ハナ様がどうなってしまうかわからないもの!

 今、私たちはハナ様を助けることだけを考えていた。隙なんて見せなかった。そう、そのはずなのに。


「えっ、き、消えた!?」

「嘘でしょ!? た、確かにこの路地に曲がって行ったのに……」


 角を曲がって行ったのを見届けてすぐに追いかけたのに、来てみたらそこには誰もいなかった。しかも行き止まり。二人して見間違えるなんてあり得ない! ど、どこに……!?


「俺たちの後を付けるとはいい度胸だな」

「っ……!?」


 突然、声が空から降ってきた。私もリタも、金縛りの魔法でもかけられたかのようにピタッと動きを止めてしまう。


 何が起きたのか、理解することも出来ない。パニックになっているその間に、美少年がハナ様を横抱きにしながら空から下りてきた。


 う、嘘でしょ……? 間違いなくこの空間は、上空も含めて誰の気配もなかったのに!


 ハナ様に魔法はかからないから、私たちに向けて気配遮断の魔法をかけた? でもそれなら、絶対にリタが気付くはず。

 ま、まさか、リタでさえ感知出来ないほど、美少年の魔法の腕が上回っているってこと……?


 意味が分からない恐怖と、見つかってしまった恐怖。そして絶対に敵わないという事実が混ざり合って、私たちを絶望させていく。生きた心地がしない。

 な、に? このプレッシャー……!? 指先さえ動かせる気がしない。恐怖で身体が震えることさえ許されないなんて……!


「む、なんだ。お前たちか」

「っ、はっ……!」


 と、急に私たちに向けられていた殺気が解かれ、呼吸が楽になる。え、何……? 私たちを、知っている? どうして?


 ようやくプレッシャーから解放されたというのに、さらに別の意味で恐怖を感じた。だって、知られているということは絶対に逃げられないってことだもん。

 こんな人に目を付けられたら、絶対に逃げ場なんてない。さっきまでとは逆で、今度は私もリタも全身が震えて動けそうになかった。


 でも、このギャレック領で犯罪なんて出来ない。絶対に髑髏師団の方たちが解決してくれるんだから。その事実があるから、私たちはまだどうにか立っていられた。


 この人がどんなに強くても、髑髏領主様がハナ様を救ってくださる……!

 だから、もし私たちがこの場で死んだとしても……。


「えっ、あ! コレットさんとリタさん!?」


 そこまで覚悟を決めた時、場違いなほど明るい声が響いた。ハナ様だ。私たちを見てとても嬉しそうに笑っている。


 い、いや、そんな朗らかに笑ってる場合じゃ……!

 こ、こんな時でもハナ様はハナ様だけど、強靭な精神力過ぎないっ!?

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