冒険者たちの衝撃 ※コレット視点②


「あっ。そういえばさ、もうギャレック邸にはハナ様がいるんだよね? 町で見かけたりしないかな」


 あと少しで冒険者ギルドに到着するというところで、ふとかわいくて明るい笑顔を思い出す。ギャレック家の話をしていたからかな。

 ハナ様は本当に素敵な貴族様で、いつまでも髑髏領主様と仲良しでいてほしいなって思う。願わくばもう一度くらいは会いたいっ!


「するわけないでしょ? ハナ様はとても親しみやすい方だったけど、辺境伯夫人になる方だよ。本来あたしたちみたいな一般人が会えるような人じゃ……」

「やっぱ、そう簡単に会える人じゃないよねぇ。お屋敷も町からは少しだけ離れた場所にあるし。買い物とかは使用人が行くんだろうし……ハナ様も出かける時は馬車とか使うんだよね、きっと」


 って、あれ? リタ? いつの間に後ろにっ!? ちょっとー! 急に立ち止まらないでよー! 私ったら知らずに一人でベラベラ喋っちゃってたじゃんっ!


 もう、恥ずかし……って、何なの、ほんと。一点を見つめて微動だにしないなんて。おーい、リター?


「? どうしたの、リタ」

「え、あ。えーっと。み、見間違いかも、なんだけどさ。コレット、あれって誰に見える……?」


 私が駆け寄って声をかけると、リタがものすごく困惑した顔でそう言った。視線もそのまま動かさないなんて相当だよね……?

 明らかに様子がおかしいので、言われた通りリタの人差し指の示す方に目を向けていく。と、そこにはなんと、たった今噂をしていたハナ様がいた! わぁっ、なんて素敵な偶然っ!


「間違いないっ、ハナ様だよ! もう、リタったら大げさに驚きすぎじゃない? 確かに街にいるなんてビックリだけどさ。おーい! ハナさ……むぐぅっ」

「馬鹿っ! よく見て!」


 たった今、もう一度会いたいって話していた人がいたから嬉しくなって声を上げたのに、すぐさまリタにガバッと口を塞がれた。

 うわっ、どうしたっていうの? しかもかなり焦ってるしっ!


 不満に思いながらも頬を膨らませると、リタがどこまでも真剣な目をしてたから勢いがスッと削がれてしまう。え、何……?


 仕方なく、黙ったままもう一度ハナ様がいた場所に目を向けてみる。あ、あれ……一人じゃ、ない?


「え、誰、あの美少年」


 見ると、ハナ様の隣にはピンクゴールドの髪を持つはちゃめちゃにかわいい顔をした美少年が立っていた。

 うっわ、目の保養ーっ。あんな美少年、この街にはいなかったよね? 初めて見た……。


 うっかり見惚れていると、リタが横腹を突きながら手を見ろと深刻な声で訴えてくる。え? 手ぇ?


「え、嘘……ハナ様と、手を繋いでる……? ま、待って。ご兄弟、なわけないよね。一人っ子だって言ってたし」

「……たとえ兄弟だったとして、あんな風にしっかり手なんか繋ぐ?」


 リタの言う通り、絶対に離すものかと言わんばかりにギュッと握りしめ合っている。それに、二人の距離がなんだか近い。

 肩と肩が触れ合う距離だ……。あっ、ちょっと! 美少年の背がそこまで高くないから、二人で会話をする時にいちいちハナ様と顔が近いっ。ひえええ!


 あ、あれって、あれって……恋人の距離なのではっ!? 


 実際にすごく幸せそうだし、仲が良さそうだし、どう見ても恋人だよね? しかも初々しさが滲み出てるから、恋人になりたてかも?


「ハッ、あまりの幸せオーラに呑み込まれるところだった……ねぇ、リタ! これって、これってやばいよね!?」

「うん、由々しき事態だ。間違いなくギャレック領の危機だよ」


 リタがあれほど慌てていたのも納得だよ! だって、ハナ様は髑髏領主様のお嫁さんとしてこのギャレック領に来たお方。


 だというのに、あの美少年と仲睦まじく街歩きをしているなんて!


「浮気、だよね……? そうだよね!? ど、どうしよう、リタ! 私たち、とんでもない現場を見ちゃったんじゃ……!」

「お、落ち着いてコレット。いや、あたしも動揺してるけど……」


 二人でコソコソと、それでいて早口で話し合う。リタがこんなに慌てるのって珍しいから、私なんかはさらにパニックだ。どどど、どうしようーっ!?


「見なかったフリ、というわけにもいかないよね……」

「当たり前だよっ! だ、だって、髑髏領主様にバレでもしたら……絶対にまずい! それこそ、街が一つ潰れちゃうよぉ! リタも見たでしょ、あの時の髑髏領主様のベタ惚れようを!!」

「わかってる! わかってるからこうして焦ってるんじゃないのっ」


 あーでもない、こーでもないと言い合っている間に、ハナ様と美少年が移動を始めたことでハッと動きを止める。

 こんなところで騒いでる場合じゃないよね。この危機を知っているのは今、私とリタしかいないんだから!


「うん、よし。決めた。尾行しよう、リタ! それで、あの美少年の正体を探ろうよ!」

「うっ、そんなこと、出来る……?」


 確かに不安だよ? あの美少年、その見目の良さからうっかり見逃してしまいそうだけど、佇まいといい纏う魔力の質といい、只者ではないオーラを放ってるし。足運びからもかなりの手練れだってことがわかる。


 髑髏師団の人、かな……? とにかく、とてつもない実力者である可能性が高いから、私たち程度の尾行じゃすぐにバレてしまうかも……だけど、だけど!


「だって、もしかしたら私たちの勘違いってことも考えられるわけじゃん。あの状況で、どう勘違いなのかはわかんないけど……あのハナ様だもん。絶対に何か理由があるはずだって思うんだよ。ハナ様の名誉のためにも、知っておきたいっ」

「コレット……うん、それはあたしも思うよ。ハナ様が髑髏領主様を裏切るようなこと、するわけない」

「だよね!」


 私たちは力強く頷き合った後、この距離を保ったままさり気なくハナ様と美少年の尾行を始めた。

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