冒険者たちの衝撃 ※コレット視点⑤
「……と、いうことがあったんだよ」
「お前ら、馬鹿か?」
私たちがいつも集まるバルで、お酒とつまみを前に私とリタは今日あったとんでもない事件をモルトとローランドの二人に話して聞かせた。
あの後、美少年が髑髏領主様だってことはまだ口外しないでくれって頼まれたんだよね。でも、パーティメンバーの二人にはまた同じ事態を起こさないためにも話しておいてほしいって言われたから。
本当は馬鹿にされそうだからこの二人には内緒にしておきたかったんだけどさ。案の定、モルトには呆れたような顔で馬鹿って言われたし。馬鹿っていう方が馬鹿なんだからねっ!
「コレットだけならともかく、リタも付いていたのによくそんな勘違いを」
「いやいやいや! あの二人を見たらモルトたちだって勘違いするでしょ! まさかあの美少年が……っと。これは大きな声では言っちゃダメなヤツ」
私が口の前で指をバッテンにしていると、大きなため息が聞こえてくる。
軽く青ざめているモルトは、仲間が髑髏領主様に失礼なことをしてしまったってことで責任を感じているのかもしれない。しれないけどぉ、なんで私だけいつものこと、みたいな反応なのかなぁ?
まぁ? よくやらかすのは私だし? リタは確かに珍しいけどぉ。
でも、そんなリタでさえ勘違いしちゃうってことだもん。今回は私、そーんなに悪くないもん。たぶん。
「確かにあの方とのイメージからはかけ離れているし、実物を見てない俺らが言えたことじゃないかもしれないが。推測は出来たはずだぞ」
「え、推測?」
串焼きを手に取り、ヤケになったように歯で豪快に肉を取りながらモルトは言う。
「あれだけハナ様が何度もおっしゃっていたじゃないか。あの方はとても『かわいい』って」
そして、何もなくなった串を軽く指で揺らしながら尤もなことを私たちに突きつけた。うっ、言われてみれば……?
「そ、そういえば……でっ、でもそれは、性格がかわいいとか、そういうギャップのことを言っているのかと思って。それに、あんなに美少年だなんて思わないじゃないっ」
少しだけ考え直してはみたものの、やっぱりあの状況で察するのは難しいと思うっ。
ギュッと両拳を握りしめながらそう言うと、モルトの隣に座っていたリタが明らかに落ち込んだ様子で口を挟んできた。
「いや、確かにあたしは冷静さを欠いていたよ。はぁ、モルトの言う通り。あれだけ仲睦まじかったんだ。ちょっと考えれば相手があの方だってことくらい予想出来たはずだよ。あー……なんで少しも考えられなかったかなぁ」
あぁ、これはかなり引き摺るやつだ。リタって普段はサバサバしているし頼りになるお姉さんって感じだけど、意外と繊細なんだよね。だから、やらかしてしまった後は一人反省会が長引くのだ。三カ月くらいは。
それがわかっているからか、モルトも慌てたようにフォローを入れ始めた。ずっと黙って食べていたローランドでさえ、自分のお皿から美味しい部分のお肉を分け与えている。
これは、話題を変える必要がありそう。楽しい話、楽しい話……っと、そうだ!
「でね、でね! 今度お屋敷に遊びに来てって言われちゃったんだよ! 数日前には連絡してほしいらしいけど……やばくない?」
「はぁっ!? やばい。それはやばい。ってか、どうしてこの流れで呼ばれるんだよっ」
案の定、みんなこの話には即座に食いついた。モルトの焦った顔、おっかしいー! ふふっ。
「ちなみに、あたしたちだけじゃないからね。モルトとローランドもだ」
「え、なん、で」
リタが少しだけ立ち直って付け加えると、ローランドも驚きの声を上げた。めっずらしーい!
ちょっと気分が良くなった私は、ルンルン気分で続きを話してあげることにした。
「ハナ様がさ、改めてギャレック領まで護衛してくれたことのお礼したいって。あ、依頼料はもらってるし、あの方からも貰いすぎってくらいの追加報酬をもらってるから、ってちゃんと断ったんだよ? でもどうしてもって」
私だってさすがに、わーい! って素直に飛びつくほど馬鹿じゃないよ。さすがにこれ以上は申し訳なくなっちゃうもん。
でもねー。あの時のハナ様のお顔を見たら、ねぇ。
「断ったんだけどぉ……ハナ様がさぁ、本当にしょんぼりと寂しそうに言うんだよ。お友達とお喋りしたいというのはダメですか、って」
「それは……断れないな」
「お、お友達……?」
モルトもローランドも困惑した顔を浮かべている。だよね? だよね? ここで断ったら鬼だよ、私たち。
「よく考えてみたらハナ様って、ギャレック領に知り合いなんて一人もいないんだよな。あれだけ明るくて優しい方だから、すぐに友達も出来るだろうけど……」
「庶民派だって言っていたもんねー。他のご令嬢との付き合いだけじゃ、堅苦しいって感じちゃいそう」
リタの話に私もさらに乗っかっていく。けど、これは本当にそう思う。きっとハナ様はちょっと寂しいんじゃないかなって。
いつもニコニコしていて、悩みなんてないって装っているだけでさ。
私だって、仲間がいるから王都に行けたもん。もし一人だったらすぐに寂しくなってた自信がある。
「だからね、少しでも気が晴れるならそれがお礼になるんじゃないかなって。ハナ様の希望を叶えなきゃって思うの! ね、いいでしょ?」
それにハナ様とお友達になれるなんて、それこそ願ってもないことだもん。私、ハナ様大好き! そしてあのお二人は私の推しっ!
さらに、あんな美少年な姿の髑髏領主様を間近で見られる機会がまたあるかもしれないんだよ? ハナ様の惚気話とともにぜひ拝みたいじゃない。これは呆れられるから内緒にするけど。
「いいもなにも、断れないだろ……わかったよ。うわぁ、マジか。髑髏領主様の屋敷なんて、関係者以外誰も行ったことないんじゃないか?」
「やった! それじゃ、早いところ予定を決めてさ、会いに行こうよー! ローランドもいいよね?」
「能天気なお前が、心底羨ましいよ、コレット……」
モルトもローランドも気が進まない顔をしていたけど、もう決定事項だもんねー! ふふっ、髑髏領主様のお屋敷だなんて、楽しみだなー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます