乙女の涙②
お喋りをしている間に馬車が動き出します。モルトさんとコレットさんは馬車に並走するように馬で付いてきてくれるのだとか。
御者はローランドさん、私と一緒に馬車に乗り込んでいるのがリタさんという形です。いつも同じ配置なんですって。
「あ、あの。質問をしても……?」
一緒に乗ってくれているリタさんはとても美人で大人しい方でしたが、ずっとこちらをチラチラと見ている視線を感じていたのですよね。何か気になることがあるかのような。
なので、質問をしてくれてむしろ助かりました。私はもちろん笑顔で了承の意を示します。
「ハナ様は、髑髏領主様の婚約者、ですよね? その、いずれはご結婚なさる、のですよね?」
おずおずと聞かれたのはそんな今更な内容でした。依頼を出した時に一通り説明をしたのですけれど。念の為の確認ということでしょうか。それとも、まだ信じられない気持ちが強いのでしょうか。
……これまでの経験上、なんとなく後者な気がします。
「ええ、そうですよ。いずれ結婚……え、えへへ、何だかそう言うと照れてしまいますね」
ただ、改めて人から言われるとものすごく恥ずかしいと言いますか。嬉しい気持ちとドキドキが溢れて顔も熱くなってしまいます。
私、本当にエドウィン様と結婚するのですよね……ああ、夢のようです!
けれど、リタさんはものすごく心配そうな顔のままです。
……ああ、やっぱりそうですよね。この顔は家でたくさん見てきたのでわかりますよー?
リタさんもまた、他の皆さんと同じようにエドウィン様がとても恐ろしいのでしょう。ギャレック領出身の方でも、やはりそう思うのですね……。ちょっと寂しいです。
「あ、あの、本当に大丈夫ですか? ハナ様のご様子を見ていると、とても幸せそうですので……何か、騙されていたりするのではないかと心配になってしまって。し、失礼なことを言っているとは思うのですが」
と、思いかけていましたが、おや? どうやら家族が抱いている印象とはまた少しだけ違うようですね。
「髑髏領主様は、とても素晴らしい方です。ギャレック領に住む者はあの方をとても信頼していますし、尊敬しています。ただ、お側にいたいかと言われるとまた話は別で……」
なるほどー。そこには確かな信頼があるというわけですか。ギャレック領に住む者だからこそ、といった意見ですね? 理解しました。
恐れられてはいるけれど、ちゃんと尊敬もされているとわかって先ほどの寂しさはどこかへ吹き飛んでしまいました。
ああ、良かった。さすがはエドウィン様。実力とその仕事ぶりで領民に示していらっしゃるのですね。素敵!
「本当に失礼なことを言うようなんですけど、髑髏領主様は直視など絶対に出来ないほど恐ろしい、ので……あの、本当に尊敬はしているんですよ? ご結婚されると聞いて素直に嬉しくもあります。で、でも、あの恐ろしさを知っているだけに、本当なのかなと疑ってしまう気持ちがどうしても……!」
つまり、エドウィン様を尊敬しているし結婚が決まりそうで嬉しくもある反面、あの恐ろしいお姿を思うと私が騙されて婚約したのではないかと心配、というわけですか。
本当に私が結婚を望んでいるのかが疑問、どうしても信じられない、という点では家族と一緒ですね。うーん、もどかしいです。
私はリタさんの言葉に静かに頷きつつ、肩をすくめて微笑みました。
「私がいくら大丈夫と言っても、きっとあまり説得力はないでしょうね。だから、今は不安でも見ていてください」
もちろん、エドウィン様への愛ならいくらでも語れますが、語るほど胡散臭いとか無理をしていると取られかねませんからね。
ええ、学んでいるのですよ、家族とのやり取りで。
「どうか、私がエドウィン様と一緒にいるところを見て判断してください。私はちっとも彼を恐ろしいとは思ってませんから。きっとそのほうが信じてもらえるって思います」
実際に自分の目で見てみないと信じられないという気持ちはよくわかりますからね。私だって、お会いする前は怖がっていたんですもの。理解は出来ます。
ああ、噂に踊らされていたあの頃の自分は愚かでした。と同時に、勇気を出して会うことを決めたあの時の自分を褒めたいとも思っています。
「ハナ様……なんだか、貴女を見ていると、本当に髑髏領主様を好ましく思っているんだなって思いそうになります」
「だって本当に思ってますもん。エドウィン様はとーってもかわいくてカッコよくてかわいいんですよっ!」
「ふふっ、髑髏領主様をそんな風に言う人、ハナ様くらいですよ」
つまり、私だけがエドウィン様の魅力を知っているってことですか? 私が一番、エドウィン様を愛している、と?
そ、そんなことありますよぉ! でも、これからもっともっとエドウィン様のことを知って、もっともっと愛するのですからまだまだですよ!
「ハナ様がギャレック夫人になったら、ギャレック領がより良く、明るくなりそうですね」
「え、えへへ。令嬢っぽくはありませんが、明るさと元気には自信があります!」
「そんなことないです。ハナ様は明るくて元気で、とても素敵なご令嬢ですよ」
リタさんはわずかに頬を赤くしながらそんな褒め言葉を送ってくれました。お世辞だとしても嬉しいものですね。
ご令嬢に見えるというのなら、エドウィン様のお隣に立つ者としてちょっぴり自信がつくというものです。
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