頼もしいギャレック邸の仲間たち③
「このお屋敷には、みなさんのような元髑髏師団の方がほとんどなのでしょうか?」
こうなってくると、もっとたくさんいるような気がしてきますよね。ただ引退した方となると、年配の方々ばかりになるのでしょうか。
それはそれで、あまり働かせすぎるのも心苦しいと思ってしまいます。まぁ、今も現役と言われてもおかしくないほど溌剌としていますので、無駄な心配だとは思うのですが。
「確かに、ここで雑用してんのは引退したジジババが多いなぁ。そのまま隠居する奴らもいるが、エドウィン様に惚れ込んだ俺たちみたいなのがこうして屋敷の雑用をしたいと名乗り上げてんだ」
「あたしは隠居するつもりだったがね」
ジャックの説明に、ゾイがフンと鼻を鳴らしながら腕を組みました。確かにそう言っていましたよね、さっき!
「ああ、ゾイみたいにエドウィン様が直々に頼むってぇこともたまにあるな! ま、ゾイが隠居なんて百年は早ぇから丁度良かったんじゃねぇの?」
「百年って馬鹿かい。そんときゃとっくに骨になってるよ! ボンド、お前はジジイになっても頭空っぽのお気楽野郎だな、まったく」
「人生気楽に楽しむのがモットーだからな!」
ダハハと豪快に笑うボンドに、ゾイが呆れたように睨んでいます。眼光が鋭いです!
「おかげでこの屋敷の平均年齢が上がって仕方ないね。ハナ様が来たことでようやく下がってくれたが」
ゾイが肩をすくめてそう言うので、やはり年配の方が多いのでしょうね。若い方はあまりいないのでしょうか。
少なくとも、エドウィン様の魔圧に耐えられないとダメなので、若い女性は確かにいなさそうです。ちょっぴり残念。
「というか、エドウィン様の奥方になるなんてどれほど胆力のあるお嬢様かと思ったが、普通にかわいらしいお嬢さんでビックリだ」
「俺も思った! 筋骨隆々なお嬢さんが来たらどうしようかっつって話してたんだよなぁ!」
か、かわいらしいだなんてそんなっ! 私はまたしても頬に両手を当ててくねくね身体を動かしました。褒められるのは大好きですが、反応に困ってしまいますね。ふふ、ふふふ。
「しっかしエドウィン様も、あの体質さえなけりゃもっと自由に生きられただろうになぁ……」
「体質、ですか?」
ジャックが眉をハの字にして残念そうに言いました。ボンドやゾイも同じような顔をしていたので、本当にこの方たちはエドウィン様を大切に思っているんだとわかります。
それにしても体質、ですか。私がエドウィン様から聞いたあのことでしょうか。
「人と接すると緊張から魔圧を放ってしまう、と聞いたのですが……」
「あー、まぁそういうところも確かにあるし、困りどころではあるんだが」
ジャックは頭を掻きながら言葉を濁します。ということは、他に理由があるというのでしょうか。
ジャックはボンドと顔を見合わせて、話していいものかを迷っているように見えました。
そこへゾイが、ハナ様なら大丈夫さ、と言いつつ口を開いてくれます。
「確かに、緊張することでエドウィン様は制御出来ないほど魔圧が膨れ上がる。だがあの人は元々、常に魔力を放出しないといけない体質なのさ。いくら使ってもその場ですぐに回復しちまう驚異の魔力量でね。身体から少しずつ出さないと魔力が体内に溜まって体調を崩しちまうんだ」
「そう、だったのですね……」
魔石に魔力を吸わせようにも、容量がすぐにいっぱいになってしまうからと使うのをやめてしまったと言います。
そんなこと、一言もおっしゃいませんでしたよね。そんな事情があったなんて知りませんでした。
つまり、エドウィン様は常に魔力を放出していないと不調を起こしてしまい、そのせいで人を遠ざけてしまうことになっているのですね?
だとすると、彼はどれだけ孤独を感じて生きてきたのでしょうか。ゾイたちのように実力のある方々が側にいて本当に良かったと心底思います。そして、私の体質にも感謝したい。
「エドウィン様は、私とは正反対の体質を持っていたのですね」
身体に一切の魔力を持たない私と、魔力を持ちすぎるエドウィン様。
まるで、まるで……。運命……!?
「正反対って……?」
ジャックの言葉にハッとなります。そうでした、まだ説明していませんでしたね。私が妄想でキャッキャしている間にゾイが簡単に説明してくれています。助かります。
「なるほどなぁ。一体どんな魔法を使ったんだ? と思っていたが、そういう理由だったのか」
「本当にエドウィン様の側にいても平気なんか? って話題で持ち切りだったんだよな!」
エドウィン様の婚約が決まった時、屋敷中、というかこの領地中そんな噂話で持ち切りだったそうです。
あー、まぁ。王都でも似たようなものでしたよね。私は正直、エドウィン様との婚約で舞い上がっていたので噂話をほとんど聞いていなかったのですけれど。
「しっかし、そーんな体質なんて初めて聞いたなー。ゾイやジャックは聞いたことあったか?」
「いや、ないな」
よく言われますね、それは。私も自分以外でそういう体質がある、という話は聞いたことがありませんでしたし。
あの広くてたくさんの情報が入ってくる王都でさえ聞いたことがないのです。もしかしたら私以外にはいないかもしれませんね。
ただ世界は広いので、私が知らないだけという可能性も大いにありますが。
「そんなこと言ったらお前ら、エドウィン様の体質だって唯一無二のもんじゃないか」
「「確かに」」
ゾイの言葉におじいさん二人が声を合わせて頷きました。その様子がなんだかおかしくて思わずクスッと笑ってしまいます。
けれど急に三人はスッと真顔になって顔を寄せ合いました。その豹変ぶりにビックリです。
「……ところでゾイ。まだミシュアルには」
「会わせてない。会わせるつもりもない」
ジャックの言葉にゾイが食い気味に答えると、三人は揃ってホーッと安堵したように息を吐きます。
えっと、何ごとでしょう? ミシュアル、とは。誰のことですかね……?
まさか、要注意人物的な人がギャレック領にいるというのでしょうか。気になります……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます