頼もしいギャレック邸の仲間たち②
「どこか優先的に見て回りたいとこはあるかい?」
ゾイに訊ねられて少し考えます。いずれ全てを見て回りはしますが、お屋敷は広いですからね。午前中だけではとても全てを見て回ることは出来ません。
優先的に……そうですねぇ。あっ、思い付きました!
「場所、というよりは働いている皆さんにご挨拶して回りたいです!」
「…………それは、使用人と話したいってことかい」
これからお世話になるのですから、顔と名前くらいは一致させたいじゃないですか。私がさらに付け加えてそう言うと、ゾイは呆れ半分で笑いました。
あら? またおかしなことを言ってしまったでしょうか。
「何度も言うが、アンタはここの主人の妻になるんだよ? 全く自覚が足りないったらないね。普通、使用人の方がアンタに挨拶しにいくのが筋ってもんだよっ」
「そ、そういうものでしたか……でも、それでは皆さんがどんなお仕事をしているのか見られないではないですか!」
メイドと言っても仕事は色々あるはずですし、それぞれの得意分野ってあると思うのですよ。
得意なこと、苦手なことを知っておけば色々とこちらも配慮出来ると思うのですが……。
やはり、辺境伯夫人というのはわざわざ自分で動かないものなのでしょうか。気になることは自分の足で向かって、自分の目で見ないと気が済まない私はお転婆なのでしょうね。
うーん、と考え込んでしまった私を見て、ゾイは柔らかく微笑んでくれました。そろそろ呆れ過ぎて疲れさせてしまいそう。申し訳ないです。
「アンタにはそのままでいてほしいもんだ。もちろん社交の場に出かける時なんかは、取り繕える程度にはマナーってもんを叩きこまなきゃならないが。普段、屋敷の中でくらいならいつも通りでいい。あたしたちが合わせるから」
「え、でも。いいんでしょうか」
けれど、意外にもゾイはそんな私の方が良いと言わんばかりです。みなさんが私に合わせてくれる……それはありがたいですけれど、ご迷惑になるんじゃ。
「あたしの態度を見ても大概だろ? でも、誰も文句を言わない。エドウィン様だって無理にメイドらしくしなくてもいいって言ってくださってんのさ。ここにいる者たちは、みんな自由だよ」
薄々そんな気はしていましたが、やはりそうなのですね。さすがはエドウィン様です、器の大きさも違いますね!
それなら、私としてもとても助かります。やはり普段過ごす家ではのびのびとしたいですから。
「さ! ハナ奥様のご希望通りに使用人巡りでもしますかねぇ」
「お、奥様だなんてそんなぁ……!」
奥様呼びをされるとやっぱり照れてちゃいますよぅ! 両頬に手を当ててくねくねしてしまいましたが、いい加減ゾイも慣れたようですね。サラッと行くよ、と言いながら部屋の扉を開けました。
エドウィン様のことになるとついテンションが上がってしまうので、今のようにスルーしてもらうのが正解です。今後もよろしくお願いします。
「……本当にベタ惚れだね。不思議なこともあるもんだ」
廊下に出たところでゾイが何かを呟きましたが、聞き返してもなんでもないと言われてしまいました。
変な娘だとでも思われましたかね? その通りなので仕方ないですね!
さて、お屋敷のことはまだこの部屋しか知りませんので、大人しくゾイの後について歩きます。ゾイによるとここは屋敷の二階奥のお部屋だそうで、エドウィン様の私室にも近いのだとか。
へ、へぇー……? なるほど、エドウィン様の私室に……。
いえ、何も変なことは考えておりません。ちょっと昨日の天使な寝顔を思い出しただけです。はぁ、あのかわいさは何にも勝りますね……!
「ああ、いたいた。そこのジジイ共! 未来のギャレック夫人が挨拶したいってさ!」
わぁ……。なかなかに強烈な口調すぎて、ここが貴族家だということを忘れてしまいそうになりました。ついでに妄想の世界に飛んでいた私の意識も一瞬で戻ってきましたよ!
客商売をしていたので気さくな態度には慣れていますが、ここまでこう、荒くれもの風と言いますか、乱暴な口調にはあまり馴染みがないのでちょっと新鮮です。
ああ、怖くはないですよ。いい人たちだとわかっていますからね!
そう。たとえ呼ばれたおじいさんたちが揃って体格が良く、目つきが鋭くて、顔に傷があったとしても。は、迫力のあるおじいさんズですね……!
「おぉ! もう来とったんか! 予定ではもう少し後って言っとらんかったか?」
「おいおいボンド。昨日エドウィン様が大慌てで窓から飛び出して行っただろうが。あれだろう、きっと」
呼ばれたおじいさんズは強面に優しい笑顔を浮かべながらこちらに歩み寄って来ました。筋骨隆々でとても強そうですが、とても親切な雰囲気がありますね。
というかエドウィン様ったら、昨日は窓から飛び出してくれたのですね。な、なんだかときめいてしまいます……!
心配をかけた分際で、こんな風に思うのは良くないとはわかっているのですが。キュンです、キュン。
「初めまして、奥様。俺ぁジャックって言います。口が悪ぃんで気に障ったんならすんません」
「はじめまして、ハナ・ウォルターズです。気にせず普段通りにしてくださいね。その方が私も気が楽なので!」
まず声をかけてくださったのは白髪をスポーツ刈りにした大柄なおじいさんでした。
ジャックもやはり元髑髏師団の方なのですか? と聞くと、にこやかに首肯して自分は元魔法部隊の魔法偵察小隊隊長だった、となにやらすごそうな肩書きをサラッとおっしゃいました。
役職についてはサッパリわかりませんが、すごい人らしいことはわかります。
「お、寛大な奥様だなぁ! 俺ぁ元空部隊の飛行偵察小隊隊長やってた、ボンドってんだ。今じゃ俺たち二人で屋敷の庭師をやってんだよ。よろしくなぁ」
もう一人の、白髪をポニーテールに結ったおじいさんもなにやらすごい人だということはわかりました。
ゾイといい、元隊長さんが普通にいるこのお屋敷……。守りは万全ですね! 心強いです!
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