ギャレック辺境伯邸②


 し、しんじゃう……。思わず両手で自分の顔を覆いました。

 そもそも、こんなにも異性と密着するなんてお父様でもあまりないことですから。


 でも、とにかく何か言葉を発さなければ! 私はドギマギしながらも口を開きました。


「だい、じょぶ、ですけど、この状況は大丈夫ではないですぅ……」

「っ! ほ、本当に、すまない。が、もう少しだけ我慢してくれ……」


 焦ったような声が返ってきたかと思うと、ものすごい力でぐんっと身体が浮くのがわかりました。

 え、エドウィン様、やはり見かけによらず力持ち……! 一瞬だけお姫様抱っこをされてさらにときめきました。

 しかもそのまま先ほどの力が嘘かと思うほど優しくベッドに下ろしてくれたのです。さらにさらにときめいてしまいますっ!


「い、痛むところはないか? 何度も触れてしまって、その、悪かった」


 今度はきちんと上半身を起こした状態なので、エドウィン様のかわいらしすぎる「心配顔~上目遣いを添えて~」をしっかり見ることが出来ました。

 このまま見惚れていたいところですが、ちゃんとお返事しなければなりませんね!

 うっ、かわいいっ! もう少し落ち着いてください、私の心臓……無理ぃ!


「い、いえ! 私の方こそ、気持ち良さそうに眠っていたところを起こしてしまい、申し訳ありませんでした! 驚かせてしまったのは私のほうですのでお気になさらないでくださいっ」


 煩悩を振り払うためにも、ブンブンと手を横に振ります。本当に気にしないでもらいたくて言ったのですが、エドウィン様は頭を抱えて俯いてしまいました。あ、あらら?


「で、出来れば眠っていたことは忘れてもらいたいんだが……」


 どうやら、寝顔を見られたことを気にしていらっしゃるご様子。なんとなく、誰にも寝顔は見せないと思っていそうなところがありますものね。普段から仮面で顔を隠すくらいですし。


 つまり、そんな貴重な寝顔を見られた私はスーパーラッキーガールですね!


「無理ですよ。寝顔もとってもかわいかったので脳裏に焼き付いてます!」

「そ、その、かわいいって言うのもやめてくれ……」


 エドウィン様がさらに頭を抱えてしまいました。

 あらら……私のフォローは裏目に出ているようです。


 私にとっては最大の褒め言葉ですが、男らしさを欲しているエドウィン様にとっては微妙でしたよね、反省です。

 以後、出来る限り心の中でだけ叫ぶことにします。出来る限り。


「そ、それにしても、すごいですね? 触れる前でしたのにすぐに起きてしまうなんて」


 頭を抱えるエドウィン様がかわいそうに思えてきたので話題を変えます。

 エドウィン様はすぐに顔を上げ、一つ咳払いをしてから答えてくれました。


「ああ。昔から眠っていても、気配を感じれば飛び起きてしまうんだ」

「はぇ、気配に敏感なのですねぇ。私なんて叩き起こされても起きないことがありますよ?」

「それはそれですごいな……?」


 あ、笑った……。笑いましたよ、天使が。


 そのお顔があまりにも素敵で、うっかり言葉に詰まってしまいます。ドキドキと心拍数が上がってしまって、ダメですね。目覚めてから供給過多ですよこれは。


 そのままエドウィン様は優しい目で私を見ながら声をかけてくださいました。


「体調には問題なさそうで安心した」

「はい! 元気だけが取り柄ですので! ご心配とご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい」


 慌ててグッと拳を握りしめて言うと、エドウィン様は困ったように笑いました。


「気にしなくていい。俺も、悪かった。会ってすぐ怒鳴ってしまった」


 ああ、謝らせてしまいました。怒鳴られたって仕方ないことをしたのは私の方なのに。

 エドウィン様が気にすることは何一つありません。私の考えの甘さが招いたことで、全面的に私が悪かったのです。


「それこそ気にしないでください。それに……ちゃんと叱ってもらえて、私は嬉しかったんですよ?」

「嬉しい……?」


 私の言葉に心底不思議そうに首を傾げるので、私はそうです、と首を縦に振りました。


「だってエドウィン様は、私の心配をしてくれたからこそ本気で怒ってくれたのでしょう? そのくらいわかります。だから、私はお礼を言うべきなのです。エドウィン様、ちゃんと叱ってくださってありがとうございました」


 ベッドの上でしたが、しっかりと頭を下げてきちんと謝罪と感謝を告げます。こういうことはちゃんとしなければなりませんから。


 謝るのもお礼を言うのも、時間が経てば経つほどなかなか言い出せなくなるものです。だからこそ、私はいつだってすぐに伝えるようにしています。


「……あ、いや。そう、か……うん、それなら。そうだな。次からは、気を付けてくれ」


 困ったように眉尻を下げ、右手で口元を隠すように目を逸らすエドウィン様はやっぱりかわいらしくて、その尊さに思わず胸を押さえてしまいます。

 なんというか、彼はその性質のせいで人からの好意を受け取ることに慣れていなさそうですよね。だからこそ、こんなにもかわいらしい姿を見られるのでしょうけれど。


 これは私が慣れさせて差し上げたいところですね。好意をたくさんお伝えせねばなりません!


 私が胸を押さえたその様子を不思議に思ったのか、エドウィン様が心配そうに顔を覗き込んできました。ああっ、そのお顔もかわいらしいですぅ!

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