冒険者たちの衝撃 ※モルト視点④
結論から言うと、俺たちは普通に大混乱していただけだ。
ひたすら魔物を倒した後の緊張と疲労、急に感じた髑髏領主様の魔圧と恐怖、そして目の前で繰り広げられた意外すぎるラブコメ。その激しい差に脳が混乱している。
あれだけの実力を見せつけられたんだ。目の前の人は、髑髏領主様以外あり得ない。
たとえ愛おしそうに、大事そうに、眠るハナ様を横抱きにしていようが……間違いなく髑髏領主様、その人だった。
「ねぇモルト、領主様の魔圧が少し和らいでるよ」
「マジか。……うわ、本当だ」
「たぶん、ハナ様が魔力に触れているからじゃないかな。魔法が効かないから触れることで魔圧も消えるんだけど、消えた側から魔圧が発生してる。だから和らいでいるように感じるんだと思う」
さすがは魔法士のリタ。分析も上級だ。でも、なるほど。未だかつてないほど髑髏領主様の前で冷静でいられるのはそのためだったのか。
「お前たち」
だが急にこちらへ顔を向けられ、声までかけられたことで俺たちは四人揃って息を呑んだ。勝手に姿勢も伸びてしまう。
「ここから、お前たちだけでギャレック領に来られるか?」
髑髏領主様、直々に質問をされる日が来ようとは……!
普段なら言葉も返すことは出来なかっただろうが、ハナ様のおかげでなんとか声も出せそうだ。
それでも、気を抜けば恐怖でどうにかなってしまいそうなのを腹に力を込めて堪える。
「は、はい! 俺たちは、ここが故郷でもあるので問題ありません!」
いつもより声がデカくなっちまったのは仕方ない。そうでもしないと声が震えてしまいそうだったからな。
髑髏領主様はそうか、と告げると、ハナ様を抱えながら後ろを向いた。
「……ハナの護衛を務めてくれたこと、感謝する。ここで依頼完了だ。馬車の後始末についても後で人を送るから心配しなくていい。周辺に群れの残党がいないかも調査させよう。まぁ、いないだろうが。ああ、それから。俺からの追加報酬も出そう。手配しておくからギルドで受け取れ」
「へぁっ!? えっ、いやっ、でも……」
後ろを向いたまま、髑髏領主様はそんな驚くべきことを俺たちに告げた。意味を理解するのが遅れて、変な声が出たんだが? 後でこいつらに笑われるやつだ。
「我が領民なのだろう。遠慮などする
動揺する俺に向かって、髑髏領主は顔だけを少しこちらに向けると少し柔らかな声色でそう言った。
それからすぐ、ハナ様を抱えたまま再び空へと飛び立つ。
な、なんだ、今の。って、そうじゃねぇ!
「あ、あ、ありがとう、ございます……っ!! エドウィン様!!」
慌ててお礼を叫んだが、一瞬でその姿が見えなくなっちまったから聞こえていたのかはわからない。
しばらく四人揃って呆然と空を見上げたまま、誰一人言葉を発することなく立ち尽くした。
「か、かっけぇ……!」
そんで、ようやく絞り出した言葉がこれだった。
いや、だってこれ以上の言葉はなくねぇ!? なんだあれ!
颯爽と現れて魔物を一掃して? でも婚約者の前ではしどろもどろで? 大事そうに横抱きにしてさぁ? それで、俺たちへのフォローも完璧で?
「めちゃくちゃ、カッコよかった……! 私、髑髏領主様に怖い以外の感情を持ったの初めてかもーっ! あっ、尊敬はしてたよ!?」
「大丈夫、あたしもわかる」
コレットとリタも大興奮だ。だが、それは俺も同じなので何も言うまい。
「もしかしてー、髑髏領主様って見た目と魔圧がすごいだけで……実はすごくお優しい方なのかなぁ? ハナ様がずっと言っていたもんね。かわいい、はまだよくわからないけど、とても優しいって」
だとすると、ハナ様は髑髏領主様のことをちゃんと見ることの出来る唯一の人だったのかもしれない。
「ハナ様は魔法が効かないから魔圧の影響を受けない。だから最初から真っ直ぐな目で見られたってことか」
「なるほど。だからこそ、髑髏領主様の本質を見抜いていらしたのか」
俺の言葉に、ローランドが納得したように何度も頷いている。こいつも珍しく興奮してるな。大人しく見えるが、目が輝いてるからわかる。
「なにそれぇ、運命のお相手ってことじゃん……! やばい! 最高! 私、あのお二人めっちゃ推せる! 推す!!」
「いつもなら呆れるとこだけど、ごめん。あたしも推すわ」
「リター! わかってくれたかーっ!!」
正直、俺もちょっとわかる。
完璧で最強で恐ろしい髑髏領主様と、元気で明るくかわらしいハナ様。
お似合いすぎるし、ハナ様の存在が今後、髑髏領主様を良い方向に変えてくれそうな気がした。
「まぁ、今はとにかく帰ろうぜ。んで、今日は飲もう! 遠征で金欠だが報酬もいただけることだしな!」
「賛成ーっ! 今日は語らずにいられないよぉ!」
今後、ギャレック辺境伯夫人としてハナ様が紹介されれば、きっと街のみんなもハナ様の魅力に気付く。
そして、お二人の姿を見たらもっと髑髏領主様に親しみが湧くだろう。
ハナ様がもたらすギャレック領の変化が、今から待ち遠しくてたまらない。
同じ領に住むことになるんだ。直接会えるような方ではないが、お姿を見ることくらいは今後も出来るだろう。
俺らは陰でひっそりと、お二人の幸せを願えばいい。
「マジで今回、依頼を受けて大正解だったよな」
「ああ。本来なら話すことも出来ないような方々と話せたからな。貴重な体験をした」
ローランドが無表情のまま目をキラキラさせて答えてやがる。
こりゃあ、今夜は飲みすぎて饒舌になるだろうな。ま、俺も終始笑ってるだろうけど。
それから俺たちは四人揃って街に向かった。この道は、領内に入るまでひっきりなしに魔物の気配が漂う最後の難関なんだが……髑髏領主様の魔圧の名残により一切気配も感じない。
改めて、髑髏領主様の規格外な強さに驚いたが……これまでのように恐怖心は抱かなかった。
彼はギャレック領とその領民を全力で守ってくれる、まさしくヒーローなんだと実感したからな!
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