街への期待⑤


 ドキドキしながらこちらに来るのを待ち、立ち止まったところで恐る恐る顔を上げます。

 すると、エドウィン様が仮面を外そうとしているではありませんか。えっ、いいんですかぁ!?


 淡いストロベリーブロンドの髪がサラリと落ち、美しい水色の瞳が真っ直ぐ私を見つめていました。

 ああ、やっぱりとてもかわいい。その瞳から、私は目が離せなくなってしまいます。


「ハナ、あまり気負わないでほしい。ギャレック家に嫁ぐことで、色々と覚えなければならないことはあると思う。だが、ふさわしくなろうとか、立派な辺境伯夫人になろうとか……自分をあまり追い込まないでほしい」


 エドウィン様からは、私を気遣うお気持ちが伝わってきました。と同時に、肩の力が抜けていくのを感じます。


 あ、私ったら……知らない間に緊張していたのかもしれません。自分では平気なつもりで、元気だけが取り柄なのだから頑張らなきゃって。

 でも、張り切り過ぎて空回っていたのかもしれません。そう考えるとちょっと恥ずかしいですね。


「君は、今のままで十分、その、魅力的、だから。無理に変える必要はない。それよりも俺は、ハナにはここでの暮らしを少しでも楽しんでほしい」

「エドウィン様……」


 ああっ、なんてお優しいのでしょう。トキメキが止まりません! それに、目が離せなくてつい見つめ合ってしまいます。

 そっ、そろそろ目を逸らしていただけませんと、トキメキ過ぎて倒れてしまいそうですぅ!


「ゴホンッ」

「っ! は、ハナ。席まで案内しよう」

「は、はいっ!」


 そんな私たちの時間を進めてくださったのはマイルズさんでした。その咳払いにどれほど救われたでしょう。ありがとうございます!


 エドウィン様に差し出された手を取ると、僅かにその手が緊張したのがわかりました。チラッと目だけで彼の様子を見ると、どこか驚いたようにも見えます。どうかしたのでしょうか?


 まぁたぶん、触れられることに慣れていらっしゃらないのでしょう。もしかしたら、自分に触れても大丈夫なのかと心配してくださっているのかも。

 私だって、自分が触れたことで魔力消費をさせてしまい、疲れさせることがあると知った今は心配になりますから。


「ありがとうございます」

「っ、あ、ああ」


 ですので、大丈夫ですよー、という気持ちも込めてニッコリと笑ってお礼を言うことにしました。

 どうやらその対応は正解だったようです。エドウィン様も安心したように口元に笑みを浮かべてくださいましたから。やはり笑顔はよりかわいいですね! 眼福です!


「なるほど。ハナ様が触れている間、確かに魔圧が消えるようですね。さすがに強者のオーラまでは隠し切れませんが、これなら一般の方々の前に出ても威圧感を与えずに済みそうです」


 私が席に着いた時、マイルズさんがにこやかにそんなことを告げました。

 なぜ知っているのかと一瞬だけ驚きましたが、おそらくミシュアルからの報告を受けているのでしょう。

 よく考えたら聞いていないわけがありませんよね。ミシュアルだって報告や連絡といった大切な部分はしっかりするでしょうし!


 それにしても……よく考えると私の体質ってエドウィン様にとっては良いことなのでは? エドウィン様は多すぎる魔力に苦労してらっしゃるのですから。胸の中に、少しだけ希望の光が灯ります。


「せっかくです、エドウィン様。ハナ様に街をご案内しては?」

「……は?」


 ポンと軽く手を打って、マイルズさんは突然そんな提案をし始めました。エドウィン様から気の抜けたお声が飛び出します。かわいいです。


「まだ領民はエドウィン様のお顔も、ハナ様のお顔も知りません。いつもは魔法で姿を消し、魔道具で魔圧を抑え、それでも魔力の気配が抑えきれないので遠目からしか見られなかった街を、仮面を外してゆっくり堪能することが出来るのでは?」


 そ、そんなに厳重な対応をしないと自分の街を見られなかったのですね……? そのことに衝撃を受けてしまいます。


 きっと、エドウィン様だって直に歩いて、その目で色々とご覧になりたいでしょうに……。なんて不憫な。心が痛みます。

 でも、それが私のこの不思議な体質でどうにかなるかもしれないと聞けば、心が躍らないわけありません。


 だってそうでしょう? 私が、エドウィン様のお力になれるかもしれないのですから。

 思わず両手を胸の前で組んでお二人の言葉を待ちました。


「だが、それだとハナにずっと触れていてもらわなければならなくなるだろう。それはさすがに……」


 えっ。あれっ。あ、そう、ですよね。つまり、私はずっとエドウィン様に触れ続けることになるわけで……。

 じわじわと顔が熱くなっていきます。チラッと見ると、エドウィン様のお顔もほんのりと赤く色づいていました。


「何か問題でも? お二人は婚約者同士なのです。常に手を繋いで歩けばよろしいではないですか」

「なっ、なっ……っ!」


 事も無げに言い切ったマイルズさんを前に、エドウィン様はもちろん、私も何も言えずに真っ赤になってしまいます。


 街歩き、となると屋敷の中でのディナーとは違って、本当の意味で! 紛れもなく! で、でででデートってことですよね? 初めての、デート……。


 しょ、初回から手繋ぎデートですかぁぁぁっ!? ど、ど、どうしましょう!?

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