街への期待③


 ともあれ、話題は変えた方が良さそうですね。ゾイにあまり睨まないように声をかけてからニールに話しかけます。


「あ、あの、ニールは街のおすすめスポットを知っているのですか?」

「おっ、そうだったそうだった。その話をしてたんすよねー」


 頭をさすりながら、ニールはにこやかに答えてくれました。ゾイの方は、どこか不満げにムスッとしていますけど。自分の紹介じゃ問題があるのかい、と呟いています。あ、あはは。


 私は苦笑いで誤魔化していますが、ニールはニコニコとご機嫌な様子で率直な意見を告げました。た、逞しいですね……!


「ゾイさんは師団の話ばっかりじゃないすかー。年頃のお嬢さん、しかも貴族のご令嬢にそんな話をしたって面白くないっすよ! 髑髏師団のヤツらなら分かり合えるかもしれねぇっすけど」

「うっ、そうだった、かね?」


 さすがに思い当たることがあったのか、ゾイは申し訳なさそうに私に目を向けました。やっぱりちょっとかわいらしいです。と同時にかわいそうにも思えますね。フォローしましょう!


「確かに偏りはありましたが、ゾイのおすすめも興味がありますし、私は行ってみたいと思いましたよ?」

「ひゅー、ハナ様やっさしー!」


 茶化すニールに再びゾイのゲンコツが握られます。けれどそれを察したらしいニールは、サッと頭を押さえながら下がりました。ゾイの舌打ちが聞こえてきます……! ま、まぁまぁ、落ち着いて!


 ゾイは相変わらずニールを睨んでいましたが、すぐに拳を下げて小さくため息を吐きました。そのまま肩をすくめて困ったように笑います。


「悪かったね、ハナ様。正直、あたしは若い子が好みそうな場所ってのが苦手でね。教えてあげようにも知らないのさ。ニール、知ってんならハナ様に教えてやってくれ」

「お任せあれー」


 ゾイに任されたニールは嬉しそうに笑い、わざとらしく胸に手を当ててお辞儀を披露してくれます。ふふっ、面白い方ですね!


 ニールは早速、色んなことを教えてくれました。若い女性に人気のスイーツ店、景色の綺麗な公園、賑やかな商店街や、少し高級店が並ぶ通りなどなど。

 ゾイも一緒になってへぇぇ、と目を輝かせて聞いてしまいましたよ! 知らないだけで、ゾイも気になっていたのでしょうか。


「それなら、街歩きが解禁されたら行ってみるかねぇ」

「はい! 楽しみです!」


 ゾイは商店街が特に気になるみたいです。普段は武器屋くらいしか足を運ばないそうなので、どんな商品が並んでいるのか興味があるのだとか。

 せっかくなので、その時はゾイに似合いそうなアクセサリーなんかを見付けたいですね。ゾイだって女性ですもの。軍服に身を包んでいますが、ちょっとくらいお洒落したっていいと思うので!


「エドウィン様と一緒に行けたら、いい雰囲気になれるデートスポットもオススメするんっすけどねー」

「こら、ニール」


 思わずそう溢したニールをゾイが窘めます。


 ああ、エドウィン様は魔圧がありますものね。それでなくても髑髏の仮面をつけていては、街の皆さんが恐れて商売どころではなくなってしまうのでしょう。


 きっとそれは、エドウィン様だって望んでいないはず。

 そりゃあ、恋する乙女的にはデートしたいに決まっていますが、どうしようもないことはわかっていますから。


 それ以外で、二人の時間を過ごせれば私はそれで十分幸せですしね!

 誰も来ることのない街の外、とかならもしかしたらデート出来るかもしれませんし。それはつまり、二人きりになれるってことでもありますし……きゃーっ! 照れちゃいます!


 ほらね? 私はあらゆる可能性を考えるのが得意なのですよ!


「すんません。でも、ハナ様ってエドウィン様のことが本当に大好きらしいじゃないっすか。デートくらいさせてやりたいじゃないっすかー。研究馬鹿の力で、今よりもっと強力な魔圧を抑える魔道具とか、開発出来ないもんっすかねー?」

「ふむ、一理あるね。あの変態ミシュアルにでも言っておくかねぇ」


 頬を人差し指で掻きながらそう言ってくれるニールはやっぱりとてもいい人ですね。ゾイもすぐ真剣に考えてくれるのがとても嬉しいです。

 二人の優しさが沁みますよ! ミシュアルへの態度がちょっとアレですけれど。


「大丈夫ですよ、お二人とも。その気持ちだけで十分ですから」


 私がそう伝えると、二人は困ったように笑います。あれれ、困らせるつもりはないのですけれど。むしろ、気にしないでもらいたくて言ったのですが、難しいものですね。


「エドウィン様も、叶うならハナ様と出かけたいと思っているだろうからね。やれることはやってみるさね。ミシュアルが」

「わー、丸投げー」


 え、エドウィン様も? それは、その。エドウィン様も同じように思ってくださっているのならこれ以上なく嬉しいですけれど!

 ほんのり照れていると、二人が優しい目でこちらを見てきたので居た堪れなくなります。ああっ、もうこちらのことは気にしないでくださぁい!


 その後、見回りに戻るというニールを見送って、私とゾイは散歩を再開させました。

 それから小一時間ほどのんびりした後、屋敷に戻って一休み。エドウィン様との夕食の時間まで自室でのんびり過ごすこととなりました。

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