第26話 研修成果発表会

国との商談については、エメラルド・ソードの量産を前向きに検討しつつ、商談継続中みたいです。


王をテロから守って、ストライク・オブ・ザ・ニンジャを倒して、sxでエメラルド・ソードを使えることが証明できたのは大金星らしいですが、それがそのまま即購入になるわけではないとのこと。


結局、わたしの成果って何だったんでしょう?

もうすぐ研修が終わり、成果を発表しないといけないのですが。


悩んでいると、シモーネさんがチョコを差し出しながらアドバイスしてくれました。

シモーネさん自身もチョコをもぐもぐ。

あらま、リスさんみたいですね。

ふわふわのボブカットがもぐもぐと連動して揺れています。


「今のファビオちゃんなりに、営業ってどういうものか語ってみたら?」

「それが成果の発表になるんですか?」

「ファビオちゃんが得られた何かがあるんなら、それが成果だよ〜」


語ると言っても、どんどん分からなくなって終わったようなものなんですが。

ロクにフォーラムの案内もできず、王の商談も有耶無耶になりました。


っていうか、王の商談はもはや何だったんですか一体!?

あんなの営業のやることなんですか?


当時は麻痺していましたが、恐怖体験がデカ過ぎて、あの後3日も寝込んだですからね。


わたしにとって営業は、あんなアドレナリン全開の珍事よりも、先輩方に連れていってもらう商談と、その準備と後処理。

頭がパンクしそうで、どんどん脅されて、理不尽。

それが営業でしたよ。


よし、営業を語るなら、その理不尽に文句を言ってやりましょう。


そう奮起して、私は資料を作りました。

何書くか悩むのに小1時間、実際作ってみるのに30分といったところ。

ま、仮ですしね。


いざ、シモーネさんに見てもらいましょう。


「国王との遠征は、営業じゃないってこと?」

「そうです。アレは別の何かです」

「じゃあ〜、なんであんなにがんばれたの?」


はて、なぜでしょう?


「なんとかしないと死ぬからですね」

「なら、逃げれば良かったんじゃない?」


確かに。

研修ですし、王とかムカつきますし、会社愛があるわけでもないのです。

おかしいですね。


「もしも、あそこで逃げ出していたら……」


私は助かりますね。

その代わりに会社はクビでしょうか?

それは別に良いですね。


王や課長の命は……たぶん無事でしたね。

アルティメット桃太郎さんがいたので。

なんなら、私たちがストライク・オブ・ザ0ニンジャを倒してホッとしている間に、テロリストを殲滅していたらしいですし。


あれ、私が頑張る意味って本当に何もないのでは?


というわけで、もしもあのとき逃げていても、何も変わらなかった、と。

意味のないことだったということですね。


本当にそうでしょうか?


ちょっと感覚的なんですが、意味がないかと問われれば、そうではないとも思うのです。


なぜと聞かれるとわからないのですが。


わたしは、ここまでのモヤモヤを、つっかえながらもありのままにシモーネさんに話してみました。


すると、言われたのは--

「ファビオちゃん自身が、あの商談を通して何か〜こう、心境が変わったこととか〜。ある?」


それは、たぶんありますね。


やりきって、気分がスッキリしたのは確かです。

ってことは、私って営業じゃなくて戦場で活躍するタイプなんでしょうか?

クソ親父に似たことをするわけなので、気分は乗らないのですが。


言葉を選びながら、今の考えをシモーネさんに伝えました。


するのシモーネさん、

「向いてないかはまだわからないかなぁー」


ちょっと突飛すぎる論理だったかもしれません。


シモーネさんが続けます。

「でも、ファビオちゃんとしては、営業にはどういう要素が重要で、ファビオちゃんにはどういう強みがあって、どう噛み合わないのかなぁー?」


営業するのに大事なのは、やっぱり商品や業界に対する知識と、あとは話術でしょう。

ちょっと前まで、営業ってその辺の経験を積めば誰でもできるようになる仕事だと思っていましたが、知識と照らし合わせながら話術を駆使するのは相当な専門技術がいるなと思い知らされました。


それに対して、ストライク・オブ・ザ・ニンジャや出テロリストとの戦いはシンプル。

持っている魔法技術を、どういうものをどうやってぶつけるか。脳を高速回転させてとにかくぶつける、といったところでした。


というわけで、ぜんぜん違いましたね。


と、話したところ、シモーネさんより。

「それは、何が違うの?」


違ったと思うんですけどね。


営業は専門知識をフル活用しながら状況に合わせて適切に言葉を使います。

戦闘は、専門知識をフル活用しながら状況に合わせて適切に魔法を--。


ん?


なんか、営業と魔法戦士って、似たようなことをしていますね。


わたしって、間違いなく魔法戦士の才能があると思うんですが、もしかして営業も才能があるのでは?

今は知識や経験がないってだけで、本当はできるのでは?


そこまで気づいたところで、シモーネさんがニッコリと微笑んでくれました。

「ファビオちゃんなりに、営業の本質の一部が分かったみたいだね。良い成果だよ〜」



というわけで、正直わたしはあまりしっくりきていなかったのですが、今の話をほぼそのまま書き殴ったような発表資料を作りました。

時間もなかったので、とてもプレゼンテーションできるようなシロモノではなかったのですが、そのまま発表の時間になりました。


場所は20人規模の会議室。

課長以上の方々が集まっているようです。

研修後の本配属をどこにするか、判断材料にするのでしょうか。


発表はガチガチに緊張しました。

命の危険は皆無なのに、ストライク・オブ・ザ・ニンジャを相手にしていたときの方がまだアドレナリンの力で気が楽でした。


疲労と緊張と納期の厳しさに負けて、わたしが覚えているのはたった一幕。


「魔法と同じやつに知識と経験を詰むことで、判断力と演技力を付けて、売り上げに繋がることが営業です」


わたしのヤケクソな言葉でした。


「ご清聴ありがとうこざいました」

と締めくくると、一斉にちゃんと拍手が沸きました。

静まり返らなくて本当に良かったです。


発表について社長からコメントです。


「素晴らしいぞ。営業について自分の言葉で語っているのが何よりも素晴らしいぞ。それは悩みながら本気で取り組んだからこそ出てきている、今現在のファビオちゃんの紛れもない哲学だぞ。研修の成果として上々だぞ」


成果を発表する場だったのに、成果に触れなかったわたしの発表。

しかし、社長はハッキリと成果とおっしゃいました。


社長が更に続けます。


「営業というのは、型がある。しかし、それは何でも切れる万能鋏のようなものだぞ。我々が目指しているのは、必要としているお客さんに確実に刺さる、鋭い剣だぞ」


確かに、一つのお客さんに徹底的に向き合い、売ったら成果が出るまでサポートする。それがまた増設に繋がる。

営業って、口八丁で売って後は知らんってイメージでしたが、随分と異なりました。


「剣を持つんだぞ。自分の手に馴染む剣に。そいつを一生研ぎ続けるんだぞ。人間はそうやって進化し続ける義務があるんだぞ。そうでないと--」


社長は一呼吸置きました。


「ただでさえ、容易に侵略される世の中だから、気を緩めるんじゃないぞ」


社長は終始、ピシッとスーツを着こなした妙齢の姿でいいきり、締めました。


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