第22話 社長の背後

閃光が消えた後に、ストライク・オブ・ザ・ニンジャの姿は跡形もなく消えていました。


「やった!」


わたしも、魔法使い達も、歓声を上げました。


野郎どもの野太く声を挙げ、中にはどこからともなくビールを飲み出すアホウもいます。

クッソ羨ましいです。


アイザック課長はさすがに酒を飲んではいませんでした。

こういうとき小人族は真っ先に宴を開くイメージだったんですが、偏見なのかもしれませんね。


その課長を、後方から呼ぶ声が近づいてきました。


「アイザック課長〜」


もこもことまんまるい髪を上下に揺らしながらゆる〜く駆け寄ってきたその姿は、紛れもなくシモーネさん。


さすがにこの人は緊張感なさすぎでは?


まあ、仕事も終わったし、わたしもゆるんでいいかもしれませんね。

おや?

アイザック課長は表情を緩めていませんね。


そういえばシモーネさんは社長のアテンド役だったはずです。

社長は一緒じゃないのでしょうか?


その答えは、すぐにシモーネさんが教えてくれました。


「社長が刺されました〜」


社運を揺るがす大事件じゃねえですか!!


シモーネさん曰く、エメラルドソードの閃光が消えて視界が戻ったとき、いつの間にか社長が背中から刺されていたとのこと。


「社長は!? 今どうしてるんですか!? 傷は浅い!? 保険金は!? 遺言は!?」


入社して早々に社長が殺されて倒産なんてまっぴらごめんです。

わたしは焦って質問攻めを降らせてしまいました。


「落ち着いて、ファビオちゃん。さすがに社長は社長なだけあって大丈夫だよ〜」


シモーネさんは落ち着いて答えてくれました。


「で、今社長はどうされてる?」


アイザック課長も冷静に。

もしかして慣れているんでしょうか?


「ここに」


シモーネさんは、スネア用のショルダーバッグの口を開けました。

中にいたのは、なんと赤ちゃん。

なぜか大人用のぶっかぶかのスーツに包まれています。


あらまー、可愛らしいお子さんですね。

いったいどちら様かしら?


「分かりました、この子、社長のお子さんですね」

「残念だけど、ファビオちゃん、これ社長」


社長へ。

びっくりしたり緊張したりすると小さくなるのは、体質上しょうがないとしても、周囲に迷惑をかけるほどは度が過ぎています。

善処してください。


わたし、怒ってます。

でも、


「でもま、こんなですけど社長も無事ですし、犯人がまた襲ってくる前に、さっさとずらかりましょう」


わたし、ポジティブ。


「そういうわけにはいかない」


アイザック課長が遮ってきました。

手帳を開いています。


「この後、社長と領主アルベルト氏、そして王で商談を行う予定だね。ファビオちゃんも出席するんだよ」


「中止にはできないんですか?」


「それは仕事を舐めすぎだよ、ファビオちゃん」


アイザック課長は短く溜息をつくと、


「よし、よし」


自分を奮い立たせるように、背筋を伸ばしました。


「で、どうすればいいと思う?」


でも、わたしに聞いてきました。

研修生に丸投げしないでくださいよ。


まあ、考えますけど。


「商談を行うには、社長を落ち着かせて元に戻す必要があります。その間に商談の準備。さらにその間に、社長を守る必要があります」


あらま、わたしたち三人に対して、役割分担もピッタリですね。


「わたしは経験不足なので社長抱っこの役がいいです」


だって直接戦うのも嫌ですし、クソ親父キングに会いたくないですし。


しかし、アイザック課長は腕を組みながら、動こうとしない。


「ファビオちゃん、研修だからなぁ〜」


「こ〜んな緊急事態に研修も何もないのでは?」


「いやいや、稀によくあるよ」


「物騒ですね」


「でも、王と領主の商談の方が物騒じゃない?」


確かに。

ってことは、物騒は日常ですか、そうですか。


アイザック課長は物騒な笑顔で、提案してきました。


「というわけで、ファビオちゃんは、社長を抱っこしてリラックスさせてあげながら、僕の商談のヘルプをお願いね」


おや?

アイザック課長、商談捨ててないですかね?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る