第23話 社長不在の重要商談
あ、シモーネさんは警護にあたるみたいです。
日向ぼっこでもしにいくかのようにふらふらと出かけていきました。
「あ、忘れもの〜」
戻ってきたかと思えば、sxを台車に積んでいきました。
そんな大事なもの忘れるものなんですかね。
「アイザック課長、アレ、わたしが行った方が良かったんじゃ……?」
課長は小人族特有の小さい親指をグッと立てて、
「ああ見えていくつもの炎上案件を鎮火させてきた強者だよ、彼女は」
信じられませんが、アイザック課長が言うなら。
さてさて、わたしたちは商談の準備です。
兵士が急ごしらえで組み立てたテントですが、わたしの知っているそれとは随分と異なって、しっかりと支柱を立てた広々とした空間になっています。
そこにわたしとアイザック課長が二人きり。
王はもうじき来られます。
「ファビオちゃんは、さっきの戦闘はどう思った?」
アイザック課長に尋ねられました。
ちんまりと腕を組んでらっしゃいます。
「sxでエメラルドソードが使えたのは良かったなと思いました」
と、素直な感想。
「逆に、何か課題は感じたかい?」
アイザック課長が聞きたかったのはネガティブな面のようです。
と、すると。
「噂に聞くエメラルドソードの威力、その1/10も出せていなかったですね」
エメラルドソードの力とは、本来ならモンスター1匹ごときに振るうようなものではないのです。
「急ごしらえとはいえ、楽器編成はそれなりの規模でしたが、それでもあの程度だったのは、課題だと思います」
アイザック課長は二回頷いて、
「それは、なぜ課題だと思うんだい?」
例の『なぜ』を聞いてきました。
しかもまた難しいヘンテコなところを。
「えっと……天下のエメラルドソードですから、あんな威力じゃダメでしょう、と思います」
「それだと……そうだな……なぜ天下のエメラルドソードは、山を砕くほどの力が出せないといけないんだろう?」
うわあ、だんだん何を聞かれているのか分からなくなってきました。
「エメラルドソードは--この一振りは、この国の力そのものですよ。抑止力としても、象徴としても、力は必要です。実際に、大きな戦闘では、いかにエメラルドソードを運用するかが戦略の鍵になっていますし」
「その戦略、根本的な課題はなんだと思う?」
「え? 戦略の課題ですか?」
さすがに軍事の知識はないので、お手上げなんですが。
「素人目に、ですが。要は王とエメラルドソードをなんとかして激戦区に運べばいいんですよ。馬だったらコントラバスだったりで。戦略っていうか、交通の話ですよね」
この辺は、そこそこ教養のあるパンピーなら誰でも知っている事実です。
アイザック課長は、人差し指をわたしに向けて、
待ってましたと言わんばかりに立ち上がりました。
「そう、実質的には一振りに依存した輸送作戦。今の軍が持っている課題はそこにある。分かってるじゃないか、ファビオちゃん」
小さい背丈のクセに豪快に肩を叩くアイザック課長。
いや、わたし一ミリも理解してないんですけど。
アイザック課長が、わたしの微妙な顔を見ながら続けます。
「すなわち、提案するのは--」
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