第18話 王と魔女と社員
その昔--
子宝に恵まれない王妃が魔女に相談すると、男子が欲しいなら赤い薔薇、女子が欲しいなら白い薔薇を食べるとよい、と助言を受けた。また、赤白両方の薔薇を食べてはいけないと、忠告を受けた。
王は国を継ぐための男子を欲し、王妃もそれに従った。
しかし、王家に入り込んだ知恵持つ魔物の手により、王妃は白い薔薇も食べてしまう。
結果、産まれたのは醜悪な竜であった。
大蛇にも似た王子を、王は王宮の地下に隠し、いつの日か呪いから解放されることを願い、育てていった。
時は巡り、竜の王子は青年とも呼べる年齢になった。
竜は花嫁を欲した。王は都で美女として名高い踊り子、歌姫、画家と様々な花嫁候補を集めた。しかし、彼女らが王宮の地下へ向かい、帰ってくることは二度となかった。皆、竜に食べられてしまったのだ。
もっと相応しい花嫁を見つけ出さねば父上を飲み込んでしまうぞと、竜は王を脅した。困り果てた王は、都では飽き足らず、国中から花嫁を募った。各村から女を1人、花嫁候補として差し出せという命令だった。
さて、辺境の村の1つでは、羊飼いの娘が花嫁候補として選ばれた。
彼女が都へ向かう途中、魔女に出会った。魔女は彼女に、たくさんの木の枝、ミルクと塩水の入った二つの桶、大きな亜麻布を持っていき、七枚のシュミーズを重ね着するとよい、と助言した。
その通りに支度した羊飼いの娘は、醜悪な竜を前にしたとき、不思議と恐怖はなかった。
ベールに包まれた娘に、竜は服を脱ぐよう言った。対して、娘は竜に、自分が1枚服を脱ぐ度に、同じように皮を脱ぐように言った。
娘は幾重にもベールを被っていた。それぞれ7度、娘はベールを、竜は皮を脱いだ。竜が最後の皮を脱いだとき、娘は竜の体を木の枝で打ち、塩水に浸してからミルクに浸からせ、亜麻布にくるんで寝かせてしまった。
翌朝、竜が目覚めると見目麗しい王子となっていた。
そして2人は結婚した。
また時が過ぎて、王子は王の座を継承した。その逸話と、圧倒的な竜の力から、民衆から竜王と呼ばれるようになった。
竜王はある時、魔界に飲み込まれた地方都市を救うべく、戦へ出ていた。その間、羊飼いだった王妃は双子の姉弟を授かった。王妃はその知らせを竜王へ送った。
しかし、王家に入り込んだ知恵持つ魔物の策略により、手紙を改変されてしまった。その内容は、産まれた子供たちは蛇であったというものだった。
竜王は2匹の蛇を大事にせよと手紙を送った。しかし、またしても魔物に手紙の内容を改変された。その内容は、子供を誰の手にも届かぬところへ隠し、王妃自身も都から姿を隠せというものだった。
そして、王妃は2人の子供を別々の川に流し、自身は魔界近くの深い山奥へ姿を隠した。
3人の行方を知るのは、魔女だけであるという。
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