第25話 社長の信頼
社長が解放されると、王は遠慮なくエメラルド・ソードを拾い、ボーグレンさんはお縄にかかりました。
「私、死刑っすか?」
テロリストと協力関係とあったならば、そして間接的に王の命も狙っていたのなら、そりゃ死刑でしょうに。
こやつの正体、竜ですよ?
容赦なんて持ち合わせておりません。
ボーグレンさんは引き続きゴネております。
「あ、テロリストの情報とか売ってもいいですよ」
あらま、軽い女ですこと。
「アイツら、人数は15人くらいで……。社長を人質に取ったら合図して、一斉に突入してくるんだ」
勝手に喋りだしました。
まあ、聞こうとは思っていたのですが。
「でも、なんでまだ突入してこないかは知らないよ! アタシ、切り捨てられたかもな!」
そんなギターとベース間違えちゃったてへぺろみたいな笑顔で誤魔化されても、まったく信じられませんが。
「確かに妙ですね。突入するのに絶好のタイミングは、とっくに過ぎている」
アイザック課長が王に意見を仰ぎました。
「見てこい、カルロス」
王が近くの兵を外に向かわせました。
カルロスさん--帽子を被った兵士は盾を構えながらテントを出て、
その途端に吹っ飛んで消えていきました。
「今のは!」
「ストライク・オブ・ニンジャ!」
瞬間、テントの屋根が剥ぎ取られ、奴の顔が見えました。
あ、口から炎が見えてますね。
そんなことだろうと思いましたよ。
「お父様、いつでもいけます」
わたしは既に、『emerald sword』のフレーズを弾き終わっていました。
テロリストの皆さん、協力してくれたボーグレンさんもろとも、ストライク・オブ・ザ・ニンジャをけしかけて消そうとしていたんでしょうね。
でも、テロリストの皆さんの突入が遅いことやら、外を守っているシモーネさんから携帯水晶にブーっと連絡があったことで、すぐに察知すことができ、備えることができました。
通信って便利ですよね。
「娘に出遅れるとは、王としてと父としても不覚なり」
何言ってんのかと思ったら、王はまだエメラルド・ソードを構えていませんてました。
わたし、分かりやすいように『emerald sword』を弾いていたと思うんですが、ボーッとしてたんですかね?
あ、冷や汗出てます!
威厳が溶け出てますよ!
失脚ですよこんなの!
こうしている間にもストライク・オブ・ザ・ニンジャは大口を開けてヂョロヂョロと炎が強まっています。
今か今かと撃ってきますよ。
要人の丸焼きが完成しちゃいます。
っていうかわたしも死ぬの!?
あ、ヤバい!
急に現実感出てきました!
いや、まだよくわかりませんが!
頭がボーッとしてきましたし!
これが現実逃避!?
ってことは!
さらば、現実!
「まったく、世話が焼けるぞ」
わたしが抱っこしていた社長が、カッコよく凛々しく喋りました。
え?
どゆこと?
社長、正気に戻ったんですか?
「何をぼーっとしている。私は時間稼ぎくららいしかやってやらないぞ」
社長が何かしたのでしょうか?
今度はまたストライク・オブ・ザ・ニンジャの方を見てみると、またもやビックリです。
アルティメット桃太郎さんが、上顎と下顎を掴んで閉じていました。
え?
あれ、筋肉でやってるんですか?
アルティメット桃太郎さんは、それはそれはよくテカる筋肉を200センチメートルはありそうなボディに纏い、ふんどし一丁でストライク・オブ・ザ・ニンジャの両顎にしがみついていました。
それと、肩には人間を担いでいるじゃないですか。
よく見ると、最初にストライク・オブ・ザ・ニンジャに襲われた兵士と、ついさっき襲われたカルロスさんですね。
ってことは、今日の死者はゼロですよ。
ストライク・オブ・ザ・ニンジャ相手に前代未聞じゃないですか?
「おい、早くしろ」
話しかけてきたのは親父でした。
エメラルド・ソードを握っています。
うるさいなぁ。
やりますよやりますよ。
わたしは設定した自動演奏に合わせてストリングの音色でメインメロディを引きました。
アイザック課長や領主アルベルト、ついでにボーグレンさんが歌唱でヘルプに入ってくれます。
ひとつ気になることがあります。
「これ、エメラルド・ソードを振ったらアルティメット桃太郎さんも無事ではすみませんけど」
社長が答えてくれました。
「アイツなら問題ないぞ。試してみろ」
「そすか」
じゃあ、遠慮なく。
魔力を一気に込めて!
ありったけのヤケクソを込めて!
わたしたちは声を合わせました。
「「エメラルド・ソードッ!!」」
エメラルドの光と轟音が視界を覆う中、確かにストライク・オブ・ザ・ニンジャが無数に裂けていくのが見えました。
あと、アルティメット桃太郎さんは、なぜか私の隣に立っていました。
これが信頼。
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