第11話 馬車部品メーカー『アーキテクト・エネミー』


昨日のコルピクラウニとは違い、アーキテクト・エネミー本社では会議室に通されました。

お客さんも15人程度、人間を中心に様々な種族が集まっています。


最初に、アーキテクト・エネミーの物理生産技術部のアーランドソンさんがアイザック課長と軽く打ち合わせ。

アーランドソンさんはのっそのっそと丸いお腹とピカピカのおでこが目立つ、人間族のおじさんです。

その後アーランドソンさんと名刺交換、続いて他の社員さん達とも交換していきました。


アーランドソンさん以外は魔法生産技術部の方々らしいです。

その割には人間が多いですね。15人中10人近くいます。

他は、ドワーフが4人とホビットが1人。くらい。

あと、全員男、というかおっさんです。


アーランドソンさんが話し始めました。


「ご多忙の中お時間いただき、ありがとうございます」


アーランドソンさんは4人掛けテーブルと同程度サイズのポスター資料をめくり始めました。


「今期、物理生産技術部ではシンセサイザーを用いた最新楽器ーーSXを導入し、業務改善に努めてまいりました。現在は、スターバーグさんのサポートもあって、導入効果が徐々に出てきている状況です。この度、物理生産技術部を超えて、全社でSXの普及を進めるべきだと考え、詳細含めて魔法生産技術部の皆様と共有させていただきたい思い、お時間を頂いた次第です」


アーランドソンさんはハキハキと話していきます。

資料には、物理生産技術部の業務フローらしき図が描かれており、課題があったらしい箇所に印が付いています。

次のページからは印の箇所の具体的な事例が、またイラストとフローで描かれていました。


「ーー以上の課題を、スターバーグさん、特にアイザックさんとの議論で見えてきたものです。不思議なことにここまで課題が見えてくると、具体的にこうしよう、SXならこうできる、というのが見えてきます。それが次のページのーー」


お、ここ大事そう。


「ーーよって、SXを導入する判断に至りました」


あれ?

話していたはずなのに、頭に入りませんでした。


寝てた? いや、単純に難しかった、ですね。

手元を見ると、汚ッない字で単語がいくつかメモってあります。


「ーーというわけでして、ここからはスターバーグの方に最新のシンセサイザー楽器SXのデモンストレーションをご覧いただきます。ファビオさん、お願いいたします」


あわわわわわわ。

打ち合わせ通りの流れだが、話を聞きながら心を無にしてメモしていたら、不意を突かれてしまいました。


SXの起動は済んでいます。

まずは深呼吸、うわ全員こっち見てる、原稿を思い出せ、最初の手順は、わわわわわ。


「ファビオちゃん、まずはブラスで『emerald sword』の一節だよ」


そうでした。

音色は既に設定済みなので、挨拶をササッとやって、あとは演奏するだけです。


「そ、それでは、これより基本機能デモンストレーションを始めさせていただきます。シンセサイザーは、えっと……基本的な波形を合成、編集することにより、様々な音色を創造することができる楽器です。既存の楽器はもちろん、この世に存在しない音色も創造することができます」


つっかえながら、セリフを回していく。

続けていくと、だんだん流れが掴めてきました。


「まずは、『emerald sword』のソロパートを合成したブラスの音色で演奏いたします」


田舎にいたとき、ピアノで『emerald sword』を時々弾いていました。SXもピアノと同じ鍵盤楽器なので、練習していなくても大丈夫と踏んだ部分です。


ブラスに設定していたプリセットを選択して、さっそく弾いていきます。


打感が柔らかい。

あと、さすがにブラスの音ではないなぁ。

ピアノアレンジしたことがあるので、それに近い譜面を想像しながらリカバリしていきます。


お客さんの反応は?

と、顔を上げたところでミスりました。

でもまあ、キリが良かったからいいでしょうか。

最後はアレンジに繋げて無理やり終わらせました。


お客さんはみんな無表情でした。


気を取り直して、今度はプリセット2。

今度はなんの楽器にも似てない、独特な音色です。

強いて言えば、めちゃめちゃ太い木管楽器。


披露するのは、国に流れる地脈魔力の活性化に寄与する『Land of Immortals』の一節。


演奏しめしたが、またしてもお客さんたちの反応はありませんでした。

おかしいな、間違えなかったと思うんですが。


「これらの音色は、魔法使い自ら作成することもできますが、頻繁に使用する音色の設定約128種は既に内部水晶に記録されており、8種類をお気に入りに登録し、すぐに音色を切り替えることができます」


音色を変えながら、引き続き『Land of Immortals』を演奏します。

反応なし。


「魔法は音色によっても効果が異なり、得たい結果毎に楽器や魔法使いを用意する必要があるかと思います。SXでは一台で、そしてその演者一人で完結します」


……やっちゃいましょうか?


まだSXで魔法を使ったことはないですが、ここまでお客さんが無反応ですと、何かもっと逆転できるパフォーマンスが必要でしょう


大丈夫。

ピアノでなら簡単な魔法が使えます。

それの応用です。


曲はマニュアルに従って『Angel of Light』。

優しい光を灯す魔法です。


SXが最も得意(らしい)ピアノの音色に切り替え、冒頭を演奏します。

魔力も流す。


よし! いけえええええええ!


すると……。


1番前に座っていたお客さんの、つるッつるのおでこが光り始めました。


うわ、最悪な失敗だ。

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