第14話 建築資材メーカー『ドリームシネマ』

練習の成果を試すときが来ました。


練習を通じて、パンフレットの内容はもちろん、用語や講演企業の抱える課題、導入までの背景も押さえました。


同じ台詞にしたって、丸暗記していたときよりも確実に伝わる状態になったと思います。

不思議な感覚ですが、なんとなくそう思います。


そのうえで、今日訪問する『ドリームシネマ』との商談の背景も知ることができました。


いや、シモーネさんが知りうる背景なので、商談中にもっと明らかになるかもしれないですが、今までよりも分かってきました。


今日の商談は、シモーネさんが以前にヒヤリングした内容を元に資料をまとめていて、それについて議論して、ドリームシネマの課題を捉える、とのことです。


さて、バスでかっ飛ぶこと二時間。

領地を二つ跨いだ『メジェスティ領』がドリームシネマの本拠地です。


ちなみにバスとは、文字通りコントラバスで飛行魔法(今回の会社『ヘルウィーン』は『Ride the Sky』を採用)を魔法使いが演奏しつつ、その楽器の巨体に乗せてもらうことで、空を移動させてもらえるサービスです。


ドリームシネマさんに到着して、ケヴィンさん--お客さんが一言。


「ウチはもう楽器は間に合ってるから、買わないよ」


あ、これはダメな商談ですね。


わたしがドン引きしている横で、シモーネさんはマイペースなまんまる笑顔のまま、話を切り出していきます。


「ぜひお仕事ご一緒させてください!」


そんなような締まり方をする頃には、すっかりお客さんが丸くなって、仕事の苦労話をしてくれるようになっていました。


そこから先はシモーネさんのテリトリーでした。

「それってもしかして、若い魔法使いにがなかなかチューバ等の古い低音楽器や、カスタネット等の体鳴楽器が定着しないからではないですか?」

「そうそう! アイツら、カスタネットのことを舐めすぎなんだ。低音も、エレキベースくらいしか知らない」


この辺まではなんとかついていけています。

しかし、話はさらに技術的な内容へ入っていくと……。


「多くの建築系ユーザから聞くのですが、やはり『Castle Of Yesterday』を使うと城壁などの大規模な運用には向いている一方で、最近は小住居向けの『Walls of Jericho』の需要が高いですよね。業界として、教育体制が整っていないのでは?」

「うちは『Walls of Jericho』の取り組みを、結構前から始めていたんだ。でも、『Castle Of Yesterday』の焼き回しみたいになってるな。若い奴らは楽器の選定をサボるし、年寄りは曲を覚えない」

「苦労されているのですね。若い魔法使いの楽器選定は、どのようにされていて、どこに引っかかっているのでしょうか?」

「ヘルウィーンの楽器構成通りだ。ある程度吹けるようになったが、魔法には至らない。だから楽器を変えろと言っても聞きやしない」

「ベテランさんはいかかでしょう?」

「アイツらはそもそも新しい曲を覚えない」

「なるほどです……」


シモーネさんが一通りメモを取り終わり、少し考えてから切り出します。


「そもそもなぜ『Walls of Jericho』を採用したのでしょう? というのも、あれはそもそも『ピンク・クリーム96』のーー現在の『ヘルウィーン』社長のデリスさんが提唱した、バス用の魔法です。しかも『Ride the Sky』の前奏です。なぜ、最近流行っているのか、よく分からないんですよね」

「確かにそうだな。うちの場合は……上が勝手に決めたな。まあ、最新の技術を取り入れようって意味では俺も同感だが」

「ぜひ上長の方ともお話しさせていただきたいですね。上下ともに課題があるように思えます」


そんなこんなで、まだまだシモーネさんとケヴィンさんの攻防は続きました。

内容はもはや理解できないが、ケヴィンさんの話を元に、提案資料を作成するという話に落ち着いたようです。


それで話を一区切り。

「別件ですがーー」

と、フォーラムの案内ターンになりました。

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