第15話 建築資材メーカー『ドリームシネマ』フォーラム案内

まずは、フォーラムのパンフレットを差し上げます。

続いて、フォーラムの概要を説明です。

わたし自身はパンフレットを見ずに、相手を見ながら。


今の所、ケヴィンさんの視線はパンフレットに集中しています。

いや、よく見るとお客さんの視線は2つ目の事例講演に向いている様です。


「『ヘビーザウルス』さんの講演にご興味がおありですか?」

「ここに書いてある、リズムマシーンの活用ってのは、どういうことだ?」

「それについては……」


なんて説明しましょう。


チラリと、デモ用に持ち込んだSXが視界に入ります。

続いてシモーネさん。頷いています。


ちょっと想定外ですが、やるべきでしょう。


「では、リズムマシーンを使ったSXのデモンストレーションをご覧ください。その方が理解が早いと思います」


SXに魔力を流し、安定させます。

それからデモの流れを思います。


まずは音色の設定。プリセットの5番を選んで、確認のためにC1を鳴らして。

キックの音がします。

続いてD1。スネアです。


これらのドラムは、他の楽器と同様に基本的な波形を合成することで作られています。


プリセット6番もテスト。

これはプロフェッショナル版の限定機能の紹介にあたります。

プロフェッショナル版SXは水晶が拡張されていて、アコースティックドラムの録音データが使用できます。


SXのヘビーユーザは使い分けますが、馴染みがなく、他の生楽器の併用する場合はアコースティック系の方が業務に合っている場合が多いです。


鍵盤とは別のツマミを確認します。

自動演奏機能のBPMを設定できます。

今は120くらいに。


「それでは、このように鍵盤を押すことにより演奏できるリズムパターンを、録音してみます」


録音のボタンを押すとカウントが入り、簡単に鍵盤を叩いて。

8ビートの基本的なリズムが奏でられます。


ケヴィンさんはこの時点で「ほう」漏らしています。

ただし、眉間に皺が寄っていますね。

納得の「ほう」ではなさそう。


「録音したリズムパターンを再生します」


再生ボタンを押すと、さきほどのリズムパターンが勝手に演奏され始めました。


ケヴィンさんは凝視しています。


「オルゴールと同じ原理で、自動演奏による魔法も実行できます」


リズムに合わせてピアノの音色で『Spirit of the Air』を演奏します。

会議室にささやかな風が注ぎ込まれました。


リズムに合わせて僅かに強弱を繰り返す風を、さらにピアノでコントロールします。


ケヴィンさんは腕を組み、唸りながら考えている様です。

興味はあっても、何か引っ掛かっている様子です。


そのケヴィンさんが割って入ってきました。


「まあ、うちはリズム隊はあまり困ってないんだが。他の楽器の自動演奏はできるか? 例えばオーボエとか」


「えっと、リズム以外も自動演奏はできますが、オーボエの音色は……」


デモ練習になかった項目です。

確か木管楽器に近い設定はあったはずですが……。


記憶を頼りに、プリセットを順々に選んでいきます。

ストリングス、ブラス、ピアノ、オルガン……。


ありました。

フルート? には少し程遠いが、近い音色。


が、ケヴィンさんは呆れたように、

「そんなのがフルートか? バカにしてる」

足を崩しました。


いやさすがにそうなりますよね

シモーネさんくらい使いこなせていれば良いのかもしれないですが。

変わってもらった方がいいでしょうか?


いや、さっきまでうまく行っていたんですから。

もう少し自分でなんとかしたいです。


「すみません、私の技術不足です。ただ、フルートのパラメタ設定は多少複雑ですが、一度設定すればプリセットとして登録しておくことができます」


まずは今の失敗をカバー。

言い訳に聞こえてしまったでしょうか?


「ちなみに、なぜフルートについて気にされているのでしょうか?」


意外にも、ケヴィンさんは素直に答えてくれました。


「最近、木管楽器の魔法使いが相次いでやめてってな。何とかならんかな、とな」


シモーネさんを真似して「なぜ」を聞いてみたけど、そして答えてもらえたけどどうしたものでしょうか。

もう少し続けてみます。


「なぜ辞められる方が多いのでしょうか?」


ケヴィンさんは指をトントンと叩きながら、

「う……ん、そうだな。やっぱりさっき言った『Walls of Jericho』に耐えられない魔法使いが特に多い、って感じだな」


少しイライラしつつ答えてもらえました。


「なるほど……」

「で、それがお前の楽器の欠陥とどう関係あるんだ」


やっべ。

どうして怒るんですか、この人。


と、わたしが固まっている横から、シモーネさんが助けてくれた。


「実は、パワー・ウォー・ウルフさんも似たような悩みを抱えられていたんですよ」


シモーネさんの一言で、ケヴィンさんの眉間のシワが取れました。

シモーネさん!

天使か!


「魔法使いが減ってるってことのか?」

「それもありますが、SXでの低音の弦楽器の再現がうまく行っていなかったんです。ですが、効果が出ています」

「ホントか〜?」


ケヴィンさんは相変わらず疑ってかかっているようですが、怒りの感情はなくなったようです。


さすがシモーネさん。慈愛か。


こうして、俺の出番はなくなってケヴィンさんとシモーネさん二人の商談になってしまいました。


わたし、やっぱりうまくいかないな。

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