第20話 SXによる魔獣討伐

どうしてこうなったのでしょう?


王とアウアレクイエムの領主--アルベルトさんとの会談を設定したら、アルベルトさんの部隊による魔獣討伐の様子を王が視察することになってしまいました。


早朝からコントラバスを使って飛んできました、アクアレクイエム--から北西に位置する森の中。

来るのにペガサス列車を5台レンタルしました。

雑用のくせに妙に頭を使うのでほとほと疲れました。


さて。

農村が近く、森も生活と一体となっていたはずのアクアレクイエム領地。


小型の魔獣や野生動物しか生息していないはずの地域だったはずが、突如としてそれはやってきたのです。


黒い体に赤く光る目。

空にも陸にも神出鬼没。

木々の間に身を隠し、樹海の隙間から狙いを定める。

意思疎通は不可能。

野生へ帰った、時代に反逆し続ける古のドラゴン。


その名もストライク・オブ・ザ・ニンジャ。


「見つけました、奴の爪痕です。まだ新しい!」


アクアレクイエムきっての兵士が報告をあげます。

木の幹の爪痕や、足跡のことを言っているのでしょう。


しかし、驚きました。

こんなに早く痕跡を見つけられるなんて。


「どれくらい前だ!」


アルベルトさんの問いに、兵士が答えられません。

経験不足でしょうか?


別の兵士--熟年の老兵が駆け寄ろうとしたところで、課長が止めに入りました。


「SXによる『Legend Will Tell 』で、詳細な情報を参照します」

「そんなことが可能なのですか?」

「本日は、スターバーグ専属の楽器隊も随伴しているため、かなり高精度で可能です」


弊社専属の契約バンド--トライ・ウィング・フォースが彼らの竜車に乗ったまま、バーンと演奏を始めます。

ギターとベースそれぞれの小型演奏用竜車。ドラムセットも搭載した大型竜車。

それから課長が乗った竜車。


痕跡の付近で、『Legend Will Tell 』が想像の3倍の音量で演奏されます。


土と落ち葉が--その地に根付いた魔力の泉が、そこで起きたことを教えてくれます。

優しい自然が、風に舞って、ハッキリと恐ろしいドラゴンの形になって、その動きを教えてくれます。

ストライク・オブ・ザ・ニンジャは幹を伝って、木の上の茂みの中に隠れていきました。


「今の、かなり明瞭だった。SXの魔法の質が良いのかね? それとも?」


アルベルトさんが、自前のギターを構えながら尋ねてきました。


分かってらっしゃる。

おっしゃる通り、戦闘体制ってとこですよ。


わたしもSXの魔源を通します。


「狩に合うように編曲しているとはいえ、あれは効きすぎです。SXでも実機でも、普通はあんなに明瞭にならない」

「ということは?」


「わたし達は奴のランチプレートの上です」


瞬間、兵士の一人が叫ぶ間もなく、消えました。

微かに見えた--黒くて細長い首。


奴です。

ストライク・オブ・ザ・ニンジャです。


高い木々が邪魔で視認できません。

ここでは一方的に餌になるだけ。


「馬に乗れ! 車に乗れ! 誘導作戦開始!」


アルベルトさんの号令と共に、一斉に動き出します。


馬車や竜車の車輪には、各隊の魔法使いが『Balance of Power』を施します。

これで木の根に引っかかりません。

わたしは、課長がSXごと『Eagle Fly Free』で飛んでくるのを、ギリギリまで待ちます。

よし来ました。

自前の SXで『Muscle Bound for Glory』の一節を弾き、増強した筋肉で一人と一台を受け止めます。


「出発!」

号令に遅れて馬が叫び、駆け出します。


同時に、ストライク・オブ・ザ・ニンジャの腕が伸びてきました。

爪が地面を抉っています。

マジで突然現れますね。


アイザック課長に『Balance of Power』を演奏を代わってもらって、わたしは後方で見張り。


さっきまでまた鼻の先にいたストライク・オブ・ザ・ニンジャは視界から消えていますが、禍々しい気配だけが肌にまとわりついてきます。


奴は、獲物を確実に仕留められる時だけ姿を現します。

さっきは偶然、出発のタイミングが重なっただけで、ちゃんと避けられたわけではありません。。

次に姿を見たとき、わたしの最期かもしれません。

認識するより先に、あの大木を削り取るような鋭く丈夫な爪で切り裂かれてしまうでしょう。。


だがら、そもそもこの作戦は待つものではありません。


別班ーートライ・ウィング・フォースな隊から、『Welcome To Paradise』が聞こえ始めました。

つい最近になって流通するようになった新しい魔法で、魔法生物を誘導する作用があるナンバーです。


一瞬だけ、黒い影が木の間から見えた気がしました。


「行きました!」


『The Whisper of Ancient Rocks』でトライ・ウィング・フォースのサポート隊に報告を送信します。


「課長!」

「進路変更!」


アイザック課長が演奏に力を込め、馬が進路を大きく変えました。


トライ・ウィング・フォースに合流するのです。

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