第10話 理想のデートとは
裕香の
画は順調に進んでいると言う事で、今日は裕香のモデルになるのは午前中だけで終了して、その後はミスミスコンの理想のデートの打ち合わせをした。バスローブだけを羽織った状態で。
スポーツカーに乗ってお洒落な店に行って旨いものを食う。これが俺が考えた理想のデートだ。
俺が理想のデートを裕香に話終わった後に『ちょっと待ってて』と言って裕香はスタジオを出て行った。暫くすると裕香は服を持って戻って来た。
「そうね、これでも着てみて」
裕香が俺に手渡してきたのはブルーのワンピースだった。
「これ? 俺が着るの?」
「うん。今、伯美に必要なのはこれだと思う」
「えっと、着替えはどこで——」
「ここで着替えれば良いじゃない。私、伯美の裸は散々見てるんだから今さら隠す必要なんかないでしょ?」
確かに。裕香に隠さなければいけないところは、もう無い。下着どころか中身まで全部を見られて、恐らく記憶もされている。
「全部脱いで。下着はこれ着けて」
裕香から渡された下着は女性物。
「新品だから気にしないで。もしも新品じゃなくて私が使ってる物の方がよければ特別にタンスから出してきてあげるけど」
それは遠慮しておく。俺は黙って裕香から渡されたキャミソールとショーツを付けた。
「うん、良い感じ。それでワンピースを着てみて」
「ふーん、思った以上に似合うね」
えっ、そうなの?
「髪はこれで留めておくか」
俺の長い髪はカチューシャでまとめられて先端は背中の方に流された。
「何か良い感じになった。これならお化粧は要らないな」
お化粧もするつもりだったのか?
「どう? ワンピースを着た感想は?」
どうって言われても。
「軽いな。生地が軽い」
「レディースの服はメンズに比べると軽く出来ているのよ。あとポケットがないでしょ?」
そう言われてみればポケットがない。不便だな。
「だから女性は鞄を持たないといけないの。だって入れるとこないんだもん」
なるほど。知らなかったことばかりだな。
「じゃぁ、ちょっと外に行ってみようか?」
「これでか? 無理。変な人と思われる」
「大丈夫だと思うよ。今の伯美を見ても男だって思う人はまずいないね」
えっ、そうなの?
「鏡で見てごらんよ」
小部屋の外に出れば壁一面が鏡のスタジオ仕様だ。
これ、俺?
鏡の中には不安そうな女の子が映っていた。
「理想のデートを考えるのならば男性目線だけじゃなくて女性目線でも考えてみたらどう?」
女性目線で考えてみる?
「ちょっとは気付きがあるかもよ」
そうなのか?
「と、言うわけで今から私とデートに行こうよ」
なるほどな。
夜は寒いからとコートを渡され『ここで待ってて』と言われて結構な数の車が行き交い、人通りもある通りでポツンと一人で立ちんぼしてる。いつ『男だ!』って指をさされるか不安で仕方なく下を向いて他の人と目が合わないようにしている。
ブロロロローン。凄いエンジン音がして目の前に真っ赤なスポーツカーが止まった。フェラーリのエンブレムだ。俺でも知ってる。
ブーンと窓ガラスが下りたそのフェラーリの運転席に座っていたのは何と裕香だった。
「乗って」
慌てて車道側に回り込み裕香が運転する車の助手席に乗り込んだ。
「どうしたんだ、これ?」
「話は後で。取り敢えずは車を出すね」
裕香はゆっくりと車を発進させた。
裕香が運転するフェラーリは右折して不忍通りへと入った。
「これ、叔母の車なのよ」
運転しながら裕香が車の説明を始めた。叔母さんの車だって?
「叔母さんって凄いお金持ちなんだな」
「まあね」
道路標識はこの先で白山通りと交差することを示している。裕香はこの交差点を直進した。
「どこまで行くんだ?」
「ちょっとそこまで」
教える気はないらしい。
春日通りも直進して突っ切った。そのまま進んで護国寺前の信号も直進。この下は地下鉄の駅だったはず。と、ここで裕香が車を左車線に寄せて左折する。すぐに首都高の入口がある。
「高速に乗るの?」
「うん」
車は護国寺のランプから五号線へと入った。やがて急なカーブが二回、三回と続く。
驚いたことに裕香は運転が上手い。車の扱いに慣れている感じが伝わってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます