第19話 悪い病気がみつかったんだ

 二年生に進級して約一ヶ月。今日からゴールデンウィークが始まる。

 昨日、裕香から『明日、行きたいところがあるから付き合って』と言われた。土曜日だし、どこか美味しいスイーツの食べ放題でも見つけたのかな? と思っていた。

 今月から始めたモデルの仕事(と言っても今はひたすらオーディションを受け続ける日々だけど)もゴールデンウィークに突入して今月はもうないし。

 でも、裕香が指定してきた待ち合わせ場所は大学構内のコンビニだった。


 ゴールデンウィークでなくても土曜日、朝八時の大学なんて人がいるはずがない。一体、裕香はどこに行く気なんだろうか?

「お待たせ」

 裕香が八時ちょうどにやってきた。白いシャツに鮮やかなグリーンのロングスカート、薄手のパーカーを羽織っている。対して僕はデニムのジャケットとスカート。モデルになった僕よりも裕香の方がお洒落に見える。

「どこに行くの?」

「すぐそこだよ。付いて来て」

 そう言うと裕香は店を出てキャンパスの奥に向かって歩いて行った。


 裕香が入っていったのは大学の附属病院だった。

「病院?」

「そう。今日はここが目的地」

 まさか裕香に悪い病気が見つかったとかじゃないよね。もしそうならご両親に紹介された時に言われるだろうし。

 エスカレーターで二階に上がって行く。大学に通ってはいても大学病院までは(有難いことに)縁がない。お陰で病院のどこに何があるのかサッパリ分からない。


 やがて裕香が辿り着いた先は産婦人科だった。診療科受付で手続きをしている。

「三0七で呼ばれるって」

「ねえ、どこか具合でも悪いの?」

「具合は……悪くはないかな。まだ」

 まだ?

「まだ? まだって、これから悪くなるの?」

「なるかも知れないし、ならないかも知れない。そこはまだ分からないなぁ」

 ——三0七

 三0七の表示が出た。裕香の番だ。

 立ち上がって一緒に行こうとしたら裕香に止められた。

「伯美はここで待ってて。必要になったら呼ばれると思うから」

 やっぱり悪い病気の告知なんだ。そうに違いない。まず本人に告げてから呼ばれるんだ。

 裕香は一人で三番の診察室に入っていった。


 暫くして看護師さんから呼ばれた。

「関山裕香さんのお連れ様はいらっしゃいますか?」

 僕のことだ。

「私です。ここにいます」

 そう言って看護師さんに手をあげて知らせた。

「関山裕香さんのお連れ様でお間違いないですか? 関山さんが三番診察室でお待ちです」

 告知が終わったんだ。僕が呼ばれたと言うことは悪い知らせという事が確定だ。良い知らせならば『勘違いだったよ』と裕香が出てきて終わるだけだから。


 三番診察室のドアをノックして中へ入る。裕香は椅子に座っていた。

「どうだった?」

「妊娠したって。今、九週目に入ったところ。出産予定日は十一月二十六日。産んでもいいよね?」

 そう妊娠したんだ。それはこれから大変、ん? 妊娠? ん? 九週目? 十一月二十六日? あれ? 産む? ん?

 えーーーーーーーーーー!!!!!!

「ちょ、ちょっと待ってよ。妊娠してるって、それって私の子ってことだよね?」

「他に誰がいるのよ! 私はそんなにモテない」

 『そんなに乱れてない』じゃなくて『そんなにモテない』というところが裕香らしい。

「赤ちゃん……」

「伯美、随分と感激してるね」

「だって……」

「ご主人ですか?」

「まだ結婚はしてないんですけどね。きっとこれからプロポーズしてくれると思います」


 裕香のお腹の中に僕の子供がいる。

「触ってみる? まだ何も分からないけど」

 恐る恐るシャツの上から裕香のお腹を撫でて見る。勿論、何も分からない。

 そうだ! 大事なことを思い出した!

「ご両親に結婚のご挨拶とお詫びに行かないと!」

 先日、交際のご挨拶に伺ったばかりなのに二ヶ月も経たずに妊娠させてしまったお詫びと結婚のお願いをしにいかないといけない。

「ちょっと待って」

「何?」

「何か忘れていることはないかな?」

 忘れ物?

「親のとこに行く前に先に私にプロポーズしてよ」

 そうだった!

「ゴメン。そうだった」


「関山裕香さん。私はこんなんでご迷惑を掛けることもあると思いますが裕香さんと子供はしっかりと守りたいと思っています。私と結婚して下さい」

「はい。末永くよろしくお願いします」


=====

物語はここで一旦、終了です。

『YESブランド』誕生秘話と掲げているくせに『YESブランド』のYの字すら出てきていないのは一応、ここまでが第一章という扱いだからです。

第二章は『YESブランド』の誕生と人気ブランドとなる切っ掛けのお話です。

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