第18話 両家公認の恋人同士

 伯美と付き合い始めて四ヵ月が過ぎた。付き合い始めて直ぐに伯美を病院に連れて行ってカウンセリングを受けさせた。

 診断の結果、伯美は同性愛者でもトランスジェンダーでもなく『カワイイ物が好きなだけ』と判断された。先生からは『女装するのもその格好がカワイイと思っているからよ。だって、究極のカワイイ物は自分がカワイくなることだからね。まっ、一種のナルシストかな』と言われた。


 『絶対に年内中に』と言って伯美は私の両親に挨拶しにうちにやってきた。キレイめのワンピースを着て。このワンピースは私と一緒に買いに行ったもの。

 うちの両親は娘から初めて紹介される彼氏がお化粧をしてワンピースを着て来たくらいで動揺する人たちではない。そこは大丈夫。

 母には亜美が事前に伯美の事をたくさん話してくれて事前学習という援護射撃をしてくれた。でも、『あの件は内緒にしたままだよ』と言っていた。

 後で聞いた話では、亜美は私が描いて彩美音祭に出品したあの伯美をモデルにした裸画像を両親に見せたらしい。

 『お姉ちゃんにはあれこれ説明するよりも感じさせた方が良い』と亜美は言っていた。亜美の言わんとする事はなんとなく理解できる。

 その事前の援護射撃が功を奏したのかどうか伯美の関山家への家庭訪問と挨拶は何事もなく終わり、母は帰り際に伯美に『何を考えているのかよく分からないような子ですが見捨てないで下さい』とこれまた何を考えているのかよく分からないお願いをしていた。


 私も年明けになってしまったけれど伯美のご両親のところにご挨拶に伺った。伯美の家は今では数少なくなった下町の鉄工所を経営している。伯美は五人兄弟の末っ子だった。お兄さんが三人とお姉さんが一人。

 一番上のお兄さんはお父さんと一緒に鉄工所をやっている。二番目のお兄さんは実家の近所で金属加工業をしていると伺った。三番目のお兄さんはサラリーマンでお姉さんはこの春から幼稚園の先生になる事が決まっている。

 私が伺った時にはご両親、兄姉が全員勢揃いしていて私は大歓迎を受けた。一人っ子の私は大家族のパワーに圧倒されっぱなしだった。


 伯美が『彼女を連れて来る』と言ったら家族は大騒ぎになったらしい。『彼女って言ってるけど男の格好をした女を連れてくるに違いない』と家族はコッソリ話し合っていたと訪問した時にお姉さんは笑いながら教えてくれた。

 お兄さんたちからは『普通の女の子がやってきた』と握手を求められ、お父さんは放心状態だった。普通にご挨拶できたのはお母さんとお姉さんだけだった、かな?


 その一ヶ月ほど前に突然、伯美が女装で日常生活を送るようになった時にはお父さんと大バトルがあったと伯美から聞いていた。

 そのお父さんからは『こんなんで良いんですか?』と言われたので、私は『伯美くんが大好きなんです。どうぞよろしくお願いします』とご挨拶をして私たちは伯美のご家族からも認められる関係になった。


 クリスマスを一緒に過ごし、初詣に一緒に行き、コーヒーショップで一緒にお茶をするという極めて普通のカップルがする数々のイベントを一つずつ順調に熟してバレンタインを迎えた。

 付き合い始めてからもうすぐ四ヶ月、双方の家族にも公認となっているカップルであればそろそろという時期にちょうどバレンタインが重なり、私たちはバレンタインの晩にホテルで一晩を過ごした。二人とも初めてと言うわけではないのにその日は初めての時よりもずっと緊張した。

 この日は亜美が母にまたしても援護射撃をしてくれて私は堂々とお泊まりを果たした。


 一度、ホテルに行くという経験をすると二度目からは大して気負わずに行けるようになる。後で知ったことではあるけれどラブホでは女性二人組はイン出来ても男性二人組は断られる事が多いらしい。

 私たちは間違いなく男女のカップルだけれど端から見れば女性二人組に分類されていたと思う。そんなこんなで私と伯美の仲はより一層深まっていった。

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