第29話 色紙に書いたサインの色は

 ありがたい事に相変わらず『ハイティーン・センス』誌で僕の人気は高いままだった。編集部の人に読者アンケートについて訪ねたところ『男の子が着て欲しい女の子のファッションだから』というのがポジティブに評価されていた。

 『女の子が考えた男の子受けするファッション』は女の子から見ると小聡明あざとく見えるので御法度なんだとか。女の子の世界は大変だ。


「そう言えばハクビさん、先々月号の読者プレゼントでハクビさんのサイン色紙が当たった子から写メが届いたんですけど。『ハクビさんのサインは緑! 超ヤバ』って。言われてみればいつも緑のペンを使っていますよね? あれ何か理由があるんですか?」

「あの緑色って私の色なんですよ。ハ・ク・ビで八・九・百。つまり#089100ってことで、その色のペンを使っているんです」

「えっ、そんな微妙な色の違いのペンってあるんですか?」

「ありますよ。ほら」

 僕は裕香にもらった愛用の緑色のペンをバッグから取り出して編集部の人に見せた。

「ホントだ。色番号が入ってる。それに何かデザインがシンプルで格好良いですね」

 お腹が大きかった裕香が頑張ってデザインしていたのを傍で見ていた僕としてはペンのデザインが褒められるのは素直に嬉しい。

「そうなんですよ。格好良いんですよ」


「これってもしかして他の色もあったりするんですか?」

「#000000の黒から#FFFFFFの白まで二百五十六色が全部揃っていますよ」

「マジですか! それ市販品なんですか?」

「市販品です。普通に店頭に並んでいて一色ずつ買えますよ」

「どこで売っているんですか?」

「カイリアというお店です。駒込にあるライブハウスなんですけど、そこの雑貨コーナーで売ってます」

「いや、それ良い情報を聞きました。僕も個人的に欲しいです」

「結構、高いんですよ」

「いくらするんですか?」

「確か、一本で九百五十円だったかな」

「メッチャ安いじゃないですか! それで二百五十六色揃っているんでしょ? それ安いです」

 安いのかなぁ。いや、ペンだよ。やっぱり高いよ。


「いやぁ、やっぱり緑色には意味があったんですね。ハクビさんほどになるとやる事が違いますね」

 すみません。妻からもらった物をただ使っているだけです。勝手に納得してる編集部の人に対して申し訳ない気持ちになる。

「そのサインの緑色の意味って記事にしても良いですか?」

「そんなの記事になるんですか?」

「十分なりますよ」

「全然構いませんけど」

「じゃぁ、これで記事一本頂きます」


 こうして僕のサインの色が緑色である理由が『ハイティーン・センス』誌の記事として書かれることとなった。

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