第11話 理想のデートは楽しくない
車は飯田橋の辺りまで来ている。東京ドームはこの辺りだが首都高からは見えない。特にこの車高の低いフェラーリからは絶望的だ。
竹橋のジャンクションを直進する。その先で都心環状線と合流すると下り坂の先でトンネルに入っていく。ここから都心環状線は地下区間に入る。
三宅坂は直進、四号線方面には行かないらしい。国会議事堂はこの辺りの地上にあるんだよな。
本当に裕香はどこに行くつもりなのだろうか?
再び地上に出て高速は高架になる。周囲には高層ビルが両側に立っている。
谷町ジャンクションの表示が道路脇に見えた。三号線や東名に向かうのならばここで右側に入る。左側にはアークヒルズが見えてきた。
裕香はここを直進して飯倉を過ぎたところで右車線に入った。目黒方面?
ジャンクションではいつの間にか上に道路が通っている。まもなく目黒というところでウインカーを出してランプを降り、すぐの信号を左折する。車は港区に入った。
目黒通りの看板が見えた。白金台の信号を左折して外苑西通りへ。やがて車がウインカーを出して左の敷地へと曲がり立派な玄関の前で停車した。
「目的地に到着」
ここ? 俺から見えるのはレストラン。
「レストランなの?」
「そうだよ。夕ご飯を食べに来たんだよ。お腹、空いてるよね?」
制服を着たお店の方が中から出て来た。裕香が車から降りる。俺も遅れないようにすぐに降りた。
「予約してある関山です。車をお願いできますか?」
「関山様、かしこ参りました」
そう言うと制服を着た男性はフェラーリに乗り込んで車を発進させた。
「さっ、行こっか」
裕香が手を繋いできた。裕香と手を繋いだまま店の中へと入る。
店に入ると綺麗で凜々しい女性が待っていた。
「関山さま、お待ちしておりました。どうぞ、ご案内いたします」
高そうな店だ。いや、絶対に高い。パーティションで囲まれて目隠しされている奥まった席に案内された。窓の外にはライトアップされた美しい庭園が見える。
「こちらへどうぞ」
席を引いてもらって腰掛ける。
「お飲み物はいかがいたしますか?」
「今日は車なのでノンアルコールで何かお願いできますか? それで良いよね?」
それで良いも何も俺らは未成年だっつーの!
「うん、それで良い」
「それでお願いします」
「かしこ参りました。すぐお持ちいたします」
ご飯はコースのフランス料理だった。どの皿も食べたことがない味で絶品だった。この店の雰囲気といい、あの味といい、絶対に値段が高いと思う。
食後のコーヒーを飲んでいたらスタッフの人がやってきた。
「本日は女性のお客様にデザートをサービスしておりますがお持ちしても宜しいでしょうか?」
「お願いします」
暫くするとデザートが運ばれてきた。
「サービスのデザートでございます」
シャーベットが裕香の前と俺の前に置かれた。女性のお客様って言ってなかったか?
俺の疑問が顔に出てたようで『伯美も十分に女性に見えてるってことだよ』と裕香に言われた。
「デートはどうだった? スポーツカーに乗って、高級なレストランに来て美味しいものを食べる。女性として扱われて伯美はどう感じた?」
「正直言ってあまり楽しくなかった」
「そうだよね。スポーツカーもピアノの生演奏のあるレストランでの食事も恋人たちには意味のある事じゃないんだと思うよ」
そうか。それを感じさせるために裕香は俺に女の格好をさせて俺の考えた理想のデートを実際に体験させたんだ。と、言うことは裕香は俺から理想のデートの話を聞いただけで『それは楽しくない』と感じたということだ。
それにしても、ついさっき話をしたのにあっという間にデートの内容を実現させた裕香の行動力と言うか、この財力はいったいどこから出ているんだ?
フェラーリの叔母さんかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます