第3話 ミスミスターに出場する
俺は附属高校からの内部進学で陽女宮大学ソフトウェア工学部に進学した。陽女宮大学は赤羽、
ソフトウェア工学部を含む工学系の学部は埼玉県の彩美音キャンパスにある。そして彩美音キャンパスと言う名前通りに映像、演劇、美術、音楽といった芸術系の学部も彩美音にあり、俺と同じく内部進学した関山裕香の通う美術学部も同じキャンパスにある。
もともと彩美音キャンパスは激増する学生に対応するための定員増に備えて昭和三十年代に芸術、体育、家政系の三学部の新設と医学、理工学部を赤羽校舎から移転させるために建設した大規模化のためのキャンパスとして開設された。
同時に附属病院の移転、小学校から高校までの附属学校の新設、当時としては贅沢品であったであろう大型コンピュータを収容するための情報処理センターも作られた。
計画段階では陽女宮大学越谷校舎と渋い名前で呼ばれていたらしいが開設前に
大学に入り同じキャンパスに通っていても関山裕香と話をすることは無かった。だって話をする必要が無いから。俺と関山との間に共通点は全く無い。強いて言うならば共に附属高校からの内部進学組というだけだ。
キャンパスで関山を見かけることがあっても顔と名前を知っている奴が歩いている程度の認識なので、学食でたった今、関山自身が食い終わったばかりであろうトレイに載ったままの空の皿、箸、フォーク、スプーンのデッサンをしていている姿を見掛けたとしても俺から関山に声を掛けることはない。
学食でそういう食い終わった後の空の皿のデッサンを関山がしている姿を何回も見かけた頃だった。またやってるなと言う程度の認識だったがトレイの上に見慣れない物体が乗っていることに俺は気付いた。よく見るとサバ缶だった。蓋の開いた空のサバの味噌煮缶詰がトレイの上に載っていた。
——あいつ何で学食で鯖缶の絵を描いているんだ?
それがその時に思った俺の正直な感想。って言うか、あいつは家から鯖缶を持ってきたのか?
そんな疑問を感じていたら嫌な奴がこっちに向かってきてる事にも気付いてしまった。北川あすみだ。今、俺が一番会いたくない奴。
「瀬能くん、どうしてもミスミスター彩美音に出場してもらうわよ。この学生からの圧倒的多数の投票結果は無視できないわよ!」
キャンパス中の学生からとったというアンケート結果が印刷された紙を出してきた。その紙は見飽きたよ。
でも、今日の北川の迫力は凄かった。ヤバい薬とか使ってねーだろうな? そう思えてしまうくらいの迫力があった。
「わかったよ。
実行委員となった高校時代のクラスメイトの鬼気迫る迫力に圧倒されてついミスミスター彩美音の参加申込書に記入してしまった。
「ありがと。それじゃぁ、準備万端よろしくね」
準備? 何だそれ? スピーチか何かだろ。そんなの適当にすれば良い。
その時の俺はそう思っていた。そして俺の苦悩はこの時に始まる事になった。
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