第8話 ところでさ、さっき勃起してたよね?

 二回目の休憩時間になった。再び用意されていたバスローブを羽織ってディレクターズチェアで体を伸ばして関山が淹れてくれた熱いコーヒーを飲む。

 部屋自体は空調が効いていてほんのりと暖かく裸でいても寒さは感じない。ただ、温かい飲み物を飲むと心地良く身体全体が冷えている事を再確認できる感じはする。

「じゃぁ、そろそろ再開はじめよっか」

 コーヒーカップを置いてバスローブをハンガーに掛けて再び同じポーズをとる。関山が始まる前に『最初は恥ずかしいと思うかも知れないけど二、三時間も経てば何とも思わなくなると思うから』と言っていたけど本当だ。関山に全裸を見られ続けているのにも何か慣れてきた。ただ、それが油断だという事をこの後に俺は身を以て知ることとなる。



 つい数十分まえに『関山に全裸を見られ続けているのにも何か慣れてきた』と思ったのも束の間、数分前から俺は孤独な格闘を続けていた。頭の中で呪文を唱える。ヤバい。収まれ。収まるんだ!


 俺の意思とは無関係にソレはグングンと大きくなっている。俺はどうすればいいんだ?

 そうだ! 難しい数学を思い浮かべてみよう。フーリエ変換ってどんなのだったっけ? あれ? マジで思い浮かばない。正弦波と余弦波だったよな。ラプラス変換は? あれ? ダメだ。気持が先端に向かってしまう。やばい。

 関山は必死にデッサンを続けている。まだ、気付いていない。早くランチタイムになれ。


 グングンと大きくなってる。ソレは俺であって俺じゃない。俺の意思とは無関係なんだ。この感覚は男じゃないと分からないと思う。

 もうダメだ。限りなくマックス状態だ。もう終わった。俺は醜態を関山に晒している。

 そこで関山の動きが止まった。また動き出した。で、また止まった。

 俺を、俺のソレを凝視している。絶対に気付いた。関山に俺が勃起してるって気付かれた。メッチャ恥ずかしい。も、もうダメだ。

「関山、あのさぁ——」

「そのままでいて。動かないで。今、いいところだから」

 いいところ? いいところなのぉ?

 結局、そのままのマックス状態で関山が描き続けていたら間もなく自然と収まってくれた。もう最悪だ。


 ランチは何とカイリアから洋食膳がデリバリーされてきた。超豪華な二重膳となっている弁当で松花堂弁当の洋食版といった感じだ。

「まさかカイリアの洋食膳が食べられるなんて思ってもいなかったよ」

「そう? でも、これ美味しいでしょ?」

「これは旨い。こんな豪華な弁当を用意してもらって悪かったな」

「これは単なるお礼。もしも気に入ってくれたのなら次回もカイリアのご飯を用意するけど」

「いいのか? あそこ旨いよな」

「じゃぁ、次回もご期待下さい」

「おぉ」

 こうして関山とのランチタイムは旨い飯と和やかな雰囲気で進んでいった。この時までは。


「ところでさ、さっき勃起してたよね?」

 %#&@#¥*%!

「いや、アレは、その、だな、まぁ、何と言うか、あぁなっちゃうと制御できないわけだ」

「ふーん。面白いね」

 面白いのか?

「いや私、初めてだからさ。男の人の裸を見たのも男性器を見たのも。だから『うわぁ。こんなに大きくなるんだ』ってちょっと感動してた」

 感動?

「面目ない」

「全然。こんな大きいの絶対に入らないよって思ったもん」

 『入らない』って。どこに? とか聞いてはいけない雰囲気だ。この狭い空間で場の空気が悪くなったりしても逃げ場はどこにもない。

「まぁ、でも物理的には入る大きさだろう。だって子供が出てくるんだぜ」

「その時になればね。普段は身体がそこまで準備出来ていないもん」

 そう言うもんなんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る