第一章

第1話 プロローグ

 二〇〇九年二月に『YESブランド』は産声を上げた。でも、そのブランド名に込められた本当の意味を知る者は数少ない。いや、亜美と私だけしか知らない。


 『YESブランド』は『Young Earthist Soul』、つまり 『地球主義の若者たちの魂』と言う言葉の頭文字イニシャルを採ったと『YESブランド』では公式に説明している。当然ながら多くの人たちにも、この公式の説明が受け入れられ理解されている。

 『YESブランド』のテーマは『地球』であり『YESブランド』のロゴマークにはピンク、水色、緑の三色の地球儀を採用している。ただ、この『地球主義の若者たちの魂』の頭文字イニシャルを採ったという説明はあくまでも建前であり本当の意味は全く違う。


 『YESブランド』の生い立ちはYESのファウンダーでありチーフ・デザイン・コンセプターとして『YESブランド』の全ての商品の方向性を決めている私、関山裕香が大学二年生の時に両親が家業として経営しているライブハウスの一角で売り始めたオリジナル商品のペンとノートから始まった。

 発売当初、全く売れなかったこのペンとノートがある事を切っ掛けにして爆発的に売れ始め、若い世代が憧れる確固たるブランドとして『YESブランド』を確立することが出来たのだが、それは何を隠そう夫の存在があったからに他ならない。


 私が夫と知り合ったのは大学の附属中学校に進学した時。そこから中学、高校の六年間を同級生として過ごした。ただこの六年間、クラスメイトになった事があったにも拘わらず私は夫とひと言も会話をかわす事なく高校を卒業し、二人とも内部進学で附属高校から陽女宮ひめみや大学へと進学した。

 私は美術学部、夫はソフトウェア工学部と別々の学部へと進学したが、どちらの学部も同じ彩美音さみおんキャンパスに置かれていた。


 六年間、お互いの存在を認識していたとは言え、ひと言の会話も無かった私たちが初めて言葉を交わすことになった切っ掛けは大学一年生の夏、夏休みが始まる直前に秋に行われる学園祭の人気者を決めるコンテストへの出場を、のちに私の夫となる瀬能伯美せの はくびくんが実行委員から強く迫られていた時にまで遡る。

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