第22話 結婚のお食事会

 結婚式なんてするつもりは全くなかったのに『せめて食事会だけでもしなさい』という母の意向で両家の家族だけが集まって食事会を催すことになった。


 最初、瀬能のお義父さんは食事会を嫌がっていた。『結婚前に大事なお嬢さんの腹をデカくさせちまったバカ息子の親がノコノコと出て行けるかぁ!』という理由で。

 この件については半分、いや、かなりな部分の責任は私にあるので『伯美くんは悪くないです。私がどうしてもって誘ったんです』と弁明したのだけれど『伯美てめーはこの期に及んで女に庇わせる気か! そんな奴は俺の子じゃねえ』などと全くの逆効果だった。

 全く取り付く島もなかったが理乃おねえさんが『裕香ちゃんが困ってるから裕香ちゃんの為に食事会に行こうよ』と言ってくれて、ようやくお義父さんは食事会に出席してもらえる事になった。


 この時期にお義姉さんからは『もし可能なら伯美を関山に入れられないかな?』と言われた。

 五人兄弟の瀬能家では上三人のお兄さんたちの結婚が落ち着いたところで『残るは理乃おねえさんが嫁に行くだけ』と家族全員が思っていたという。

 まさか伯美が女の子を連れてくるとは誰も思っていなかったらしく『想定外』だったようだ。家業の鉄工所の事業が思わしくないと言う経済的な理由もあった。

 『関山家うちはどっちでも大丈夫だと思いますよ。伯美くんと相談してから両親に話してみます』とお義姉さんには答えておいた。


 食事会はカイリア迎賓館と呼ばれているパーティールームで行うことになった。

 関山家うちからは両親と姉という立場の亜美と旦那さん、亜美の娘の椎菜と私の六人。瀬能家からはご両親と兄姉が四人にお義兄さんたちのお嫁さんが三人に子供が三人で十二人。合計で十八人が出席した。

 もう、規模的には食事会じゃなくて披露宴と言っても良いと思う。


 結納は行わないつもりだったけど伯美が関山になることになったので母の強い要望で食事会の場で簡略的に結納も行うことになった。

「ねえ、もしかして裕香ちゃんの家ってカイリアなの?」

 食事会も進みお父さんとお義父さんも良い雰囲気でお酒を酌み交わし始めた頃にお義姉さんから聞かれた。

「そうです。母が社長で父が副社長をしています。実は私もカイリアの社員になっていて普段はアルバイトと言ってますけど正確には時短勤務扱いの正社員なんです」

「ご実家はライブハウスだって聞いていたから勝手に場末の地下にお店があってモヒカンなお父さんが出てくるもんだと思ってたんで驚いた」

 地下のライブハウスはあるかも知れないけどモヒカンな人が出てくる確率は無いと思う。


「裕香ちゃんは小さな頃から美術が得意だったの?」

 普通はそう思うよね。でもお義姉さん、私は普通じゃなかったんです。

「得意と言うよりも絵を描いていれば人と話をしないで済みますから。それが絵を画いていた理由です。私、コミュ障で人と関わらないように生きてきたんで」

 消極的理由で絵を描くことを好んだ。他人と関わることが何よりも嫌だった。

「裕香と知り合ったのは中学一年の時だけど初めて会話をしたのは去年だったからね」

 それは伯美の人気が高かったから。私なんかが人気者の伯美に声を掛けようものなら当然虐めの対象になる。


「運動とかは?」

「全く。これっぽっちもしませんでした。そこは両親から引き継がれませんでした」

 関山うちの両親は私と対照的に揃ってスポーツマンだ。

「やってみれば出来たかもよ。あなた、しようともしないんだもの」

「ご両親は何かやられていたんですか?」

 お義母さんが母に尋ねている。

「高校まではバスケットをしていました。二人とも」

「あら、私もバスケットをしていたんですよ」

 お義母さんってバスケットしてたの? 意外だ。

「ポジションはどこだったんですか?」

「SGです」

「わぉ、シューターですね」

「そうなんですけどね、なかなか点を入れさせてもらえなかったんですよ」

 母とお義母さんのバスケット談義が始まった。


「お母さんってインターハイに行ったんでしょ?」

 お義姉さんが新たなお義母さんの情報を教えてくれる。インターハイなら関山うちの両親も行ってる。何度も。

「行ったけど決勝で負けちゃったから」

「それ、いつのインターハイですか?」

「インターハイに行ったのは七十九年ですね。滋賀でした」


「私たちは八十四年から八十六年に行きました。秋田、石川、山口でした」

「三回行ったって、もしかして陽女宮附属ですか?」

「そうです」

「凄い。それ全部優勝ですよね」

「優勝しました」

「それ以前から優勝してましたよね? 何連覇だったんですか?」

「私たちの時には三連覇から五連覇でした」

「五連覇の優勝チーム!」

「ポジションは?」

「PGでした」

「待って下さい。優勝校のPGって、MVP獲ってましたよね?」

「頂きました」

「凄い!」

「私たちの青春時代ですね」

 青春時代はその頃だったかも知れないけど、母の本当の偉業は小学生の時だと思う。私が中学生の時にトロントに連れて行って見せてもらったアレは凄いと思う。



「二人の今日のドレスってオーダーメイドなの?」

「はい、私が作りました」

 今日は伯美も私もウェディングドレスをイメージしたドレスを着ている。二つとも私がデザインして縫製をした。

「伯美に似合っていてピッタリだもの。案外、あんたは良いモデルになるかもよ」

 お義姉さんの受けは良かった。お義父さんは伯美のドレス姿を見て眉間にシワを寄せてしかめ面をしてたけど。


「『ハイティーン・センス』の専属モデル契約も決まったしね」

「それ、いつから載るの?」

「八月号からで七月に発売されます」

「まさか弟が女性誌のファッションモデルになるだなんて思わなかったよ」

「結構な数の服を着ていたので間違いなく複数ページに載ると思います」

「でも、モデルになって直ぐに雑誌の専属モデル契約が決まったなんて順調じゃない」

「エクサディアのお陰ですね」

「エクサディア? 伯美の事務所って裕香ちゃんのとこじゃなかったっけ?」

「所属事務所はカイリアですけど、カイリアにはモデル事務所のノウハウが無いんですよ。それでマネジメントの一切をエクサディアに委託しているんです」

 美有ちゃんの紹介でハクビのモデル活動は順調に滑り出している。

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