第26話 僕ってなんなの?
「晴沙ちゃんとの撮影、どうだった?」
撮影を終えて家に帰るなり裕香から聞かれた。でも、特にこれと言う感想はないなぁ。
「可愛いく撮れてたんじゃないかな」
正直に答えたら『興味なさ過ぎ』と言われてしまった。そんなこと言われても。
「だって……」
「ホント、伯美は女の子に興味持たないよねえ」
「女の子に興味が薄いのは事実だから」
そう考えるとやっぱり僕は。
「ねえ、やっぱり僕って同性愛者なんじゃないのかな?」
「違うって先生から診断されたでしょ」
「そうだけど……」
「ねえ、私とエッチしたいって思う?」
そんなの決まってる。
「思う」
だって裕香は先月、香葉瑠を出産してるから、もう数ヶ月はご無沙汰してる。夫婦になってからは両手で数えられる程しかしていない。正直に言って『したい』って思ってる。
「じゃぁ、違うよ。今の私はどこからどう見ても男の子には見えないでしょ?」
「そうなんだよね」
去年のミスミスター彩美音での裕香は格好良いイケメンになっていた。あの時はドキドキしてた。でも、今はイケメンではない裕香にドキドキしてるから証明は終了。はぁ、いったい僕は何者なんだろうか?
「そんなに悩まないの」
「私って何者なんだろう?」
「伯美は伯美だよ。それで良いじゃない」
「そうなんだけど」
「妻が『それで良い』って言ってるんだから良いじゃない」
裕香は今の僕を受け入れてくれている。いや、受け入れてくれてるどころか本当の僕を見つけ出してくれた。
「伯美が悩んでいるようだから私の考えを話してみるね。あくまでも私の考えだけど」
「うん」
「そもそも伯美は三田先輩や曽根くんに興味を持ったんでしょ?」
三田先輩は中学生の時に好きになったお洒落で格好良い先輩。曽根くんはビジュアル系の後輩くん。
「そう」
「それで『男の子を好きになった自分は同性愛者だ』と思った」
「そう。でも、そう思うじゃん」
「あの頃、女の子には興味なさそうだったもんね」
中学、高校の頃には女の子には全く興味が無かった。
「なかった」
「たくさん告白されてたでしょ?」
「された」
「私の事なんか話をしたこともなくて存在さえ知らなかったでしょ?」
「あっ、でも裕香のことは知ってたし気にはなってたよ」
裕香が『えっ?』って顔をした。意外だったかな。
「私のこと、気になってたの?」
「正直に言うと気になったのは裕香じゃなくて裕香が描いた絵だったんだけどね」
「絵?」
「中学生の時じゃなくて高校生の時なんだけど、文化祭で文房具とか食器の絵を描いた事があったでしょ? スケッチブックに描いてたやつ」
「あぁ、高一の時だね。そんなの覚えているんだ?」
「他の人は皆んな大きなキャンバスに有名な巨匠みたいな感じの絵を描いているのに一人だけスケッチブックに描いていたんだけど凄く可愛く思えて、作者を見たら関山裕香って書いてあったから」
「惜しい! そこで私に声を掛けてくれれば楽しい高校生活が送れたのに」
「あの頃は自分が同性愛者だと信じて疑わなかったから自分から女の子に声を掛けるなんて考えもしなかったよ」
「街で女の子を見掛けてもスカートの色や柄に目はいってもそれを穿いている女の子は見てなかったし」
「スカート、可愛いって思った?」
「思った」
「そこで自分も穿きたいって思わなかったの?」
「その時には思わなかった。でも今、考えるとそう思ってたのかも知れない。その時の僕は自分が同性愛者だと思っていたからスカート穿くなんて頭の片隅にもなかった」
「じゃぁ、同性愛者だと思っていなかったらその時にスカートを穿いていたかも知れないよね?」
なるほどね。
「そうだね。その可能性はあるかも」
「そうしたら伯美は『僕は男の子が好きだしスカートも穿きたいと思っているから自分はホントは女の子なのかも』と思っていたかも知れないでしょ?」
あぁ、そう言う可能性は否定できない。
「そうだね」
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