第28話 冒険の始まり

 プレイヤーには、あらかじめハンドアウトを相談して渡してある。

 それに沿って、個別にオープニングを行う。




 PC番号5、王子。


「……旅をしていたあなたは、うわさを聞きます。

 今までに見たこともないような、奇妙な魔物が出現していると」


「ゲームマスター、状況を確認していいか? どんな場所にいて、誰がうわさをしているのか」


「どんな場所がいいでしょう? 詳細は決めてないんですが」


「ふむ……なら、旅の途中で立ち寄った軽食屋といったところか。

 街道沿いにぽつんと立つ質素な軽食屋、そこで腹ごしらえをしていて、ふと耳をそばだてれば、他の旅人と軽食屋の主人が話をしている、と」


「ああ、いいですね。雰囲気が出ます」


――あなたは流浪の武芸者。

  自分の強さを試すため、強い相手を求めて旅をしていた。

  そんな中で知る、奇妙な魔物の存在、そして目覚めんとする闇。

  力を振るういい機会だ、あなたは戦いに挑むことを決意した。




 PC番号4、大臣。


「……そこでワガハイは暗雲立ちこめる空を見上げて言うのですぞ!

『体がうずく……あたしの中の闇が共鳴する……!

 でもあたしは絶対に負けないわ! この闇に屈したりなんか、絶対にしない!

 この遺された魔石に誓って! 嵐に巻き込まれて死んだパパとママが、天国で胸を張って見ていられるような生き方を貫くんだから……!』」


「のうゲームマスター、これどこまで事前に決めた設定じゃ?」


「闇の力を持ってるのは事前に話し合ってましたけど、両親が嵐に巻き込まれたとか装備品の魔石が形見だとかは今初めて知りましたねー」


「うっうっうっ、天涯孤独の身で一人運命と戦う姿、涙があふれて止まらないでありますぅ……!」


――あなたは闇の力を身に宿す忌み子。

  いつか大いなる闇が目覚めしとき、あなた自身もまた、闇に染まる宿命にある。

  しかしてあなたは感じる。大いなる闇の目覚めを。

  このまま闇に飲まれてなるものか。運命にあらがうため、あなたは戦いに身を投じる。




PC番号3、兵士長。


「……王は信頼を寄せる騎士であるあなたに告げます。

『この世界の平穏を守るため、ふりかかる災厄を必ず食い止めてくれ』」


「片ひざをついて、敬礼を示して返答するでござる。

『王の信頼に、必ずや応えてみせるでござる』」


「兵士長のロールプレイはそつがなくて、落ち着いて見られるな」


「つまらなくはないでござるか?」


「全員がはっちゃけても、ごちゃごちゃするだろうからな」


「もしワガハイが五人いてプレイヤーやったとしたら、異世界人も間違いなく困るんですぞ!」


「それ自覚したうえできちんとシナリオが壊れない範囲で収めるの、もうベテランの域なんだよなあ……」


――あなたは王に仕える騎士。

  あるとき王より使命を受ける。世界にふりかかろうとする災いを除くのだと。

  王宮に伝わる予言の鏡が、おおいなる災いを予言しているのだという。

  王の期待に応え、また世界を危機から救うため、あなたは旅立ちを決意した。




 PC番号2、女神様。


「……世界を救う鍵を探して、あなたは旅を続けていたわけです。

 そんな中で、うーんメイドさんどうします? 場面としては森の中とか」


「あっはい! そうですね、森を歩いていて魔物に襲われて……」


「うむ! そこでこの身のキャラクターは、メイドのキャラクターが襲われてる場面に遭遇するわけじゃな!

『そこまでじゃ闇につらなる魔物どもよ! この身が来たからには好き勝手させんぞ!』

 そう言って割り込んで……あっこの身ってサポートキャラじゃった! 割り込んだらこの身死ぬんじゃ!?」


「うわぁぁん女神様死なないでほしいでありますぅぅぅ!

 女神様が死んだら本官、涙でおぼれ死んで後を追うでありますぅぅぅ!」


「ええいゲームの話でいちいち騒ぐでない!

 おぬし本当にやりかねんのじゃ!」


――あなたは世界の秘密を知る旅人。

  いつか来る世界の危機に備え、それに対抗できる選ばれた者を探して旅をしていた。

  そんなある日、奇妙な魔物に襲われる少女を見つける。

  彼女こそ、世界の危機を救うための鍵、「虹の勇者」。そう確信したあなたは、彼女を守るべく戦う。

 



 PC番号1、メイドさん。


「……えーと、女神様のシーンで大体描写しちゃったので、その前の部分をやりましょうね。

 平凡な村娘のあなたは、この日森に来ていて……」


「ええっと、木の実採りでもしてるんでしょうか」


「『少女の日課は、森にこもっての身体鍛錬であった。

 手ごろな木を見つけると手刀で切り落とし、片手でかついで走り込みを行い足腰を鍛えるのだ』」


「王子ー!?」


「すまん、つい俺も悪ノリしてみたくなった」


「めっちゃびっくりしました……王子がそういうタイプの悪ノリするのあんまりないから」


「えっと、わたしこれ、乗っかった方がいいんでしょうか!?」


「メイドさんさすがにそれは乗っからなくていいですよ!?

 平凡な村娘って言ってるのに全然平凡じゃなくなりますから!?」


――あなたは平凡な村の、平凡な少女。

  幼いころから不思議なあざを持っていたものの、それ以外はなんら他の子供と変わりない。はずだった。

  この日、突然奇妙な魔物に襲われ、そのときあなたの中に眠る特別な力が目覚める。

  その力の導きに従い、また村の家族たちを守るため、あなたは旅立ちを決意する。




「……では全員のオープニングが済んで、ここで戦闘です!

 魔物に襲われるメイドさんのキャラクター、他のみなさんも合流して参加してくださいね!」


「『闇の気配を追って、見つけたわ闇の眷属の魔物たち!

 あんたたちを倒して、あたしはあんたたちと違うってことを証明してやるわ!』」


「拙者は情報を集めようとしていて、偶然通りかかる感じでござるな。

『むっ、一般人が魔物に襲われているでござる! 騎士として助太刀いたすでござる!』」


「うわさの魔物を探していて見つける流れだな。

『例の魔物はあれか! 俺の武力、見せてやるぞ!」


 戦闘を開始する。

 テーブルに置いた地形図に、キャラクターの配置を示すコマを設置しながら、僕は告げた。


「今回のセッションはメイドさんのキャラクターの覚醒を演出する都合で、この中間戦闘の比重が重くなってます!

 リソースの出し惜しみはせず、全力で戦ってくださいね!」

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