第38話 対立シナリオ

 セッション開始。


 第二話の最後、魔王の降臨により、暗黒の雲は世界中に広がった。

 闇の力の共鳴により、大臣のキャラクターとNPCは苦しみ出す。


「『あ、あたしの中の闇が、抑えきれなくなりそう……! うああッ……!』

 ここで神官! ロールプレイを合わせるのですぞ〜!」


「了解であります! 僭越せんえつながら本官が務めさせていただくであります!

『本官も耐えきれないであります〜苦しいであります〜!』」


「ワガハイのキャラクターはそれを見て、決意するのですぞ!

『このままじゃ、あたしも彼女も耐えられない……でもこの魔石をたくせば、彼女だけなら……!』

 両親の形見の魔石、これを服から引きちぎって、NPCに渡すのですぞ〜!」


「あっそういうの託される感じでありますか!?

 なんか思ったより重大な役割でありますね!?」


「この魔石に闇の侵食を抑える効果があるという設定なんですぞ! なので魔石を持ったNPCは侵食が収まって、魔石を手放したワガハイのキャラクターは侵食が進むという設定ですぞ!

『よかった、これであなたは助かる……

 ごめんパパ、ママ、約束破って……

 ごめん、みんな。あたしもう、一緒に戦えない……』

 闇に完全に侵食されて、敵になるのですぞ!」


「うわあああんこんな形で本官だけ助かるなんて!

 イヤであります一緒にこの窮地を乗り越えて笑い合いたかったであります〜!」


「のう神官、今それロールプレイか? 素か? どっちじゃ?」


「しかし大臣殿、ロールプレイ上手でござるな……見入ってしまうでござるぞ」


「わたしも、ネタバレ聞いてたのにちょっとグッときちゃいました!」


「むっほほほ〜! そんなにほめてもワガハイが調子に乗るだけですぞ〜!」


 戦闘に移る。

 戦闘マップ、プレイヤーキャラクターのコマと向かい合うように大臣のキャラクターのコマを配置し、ザコモンスターも設置する。

 配置しながら、補足説明をする。


「この戦闘、大臣のキャラクターはNPCに準じた扱いとし、判定ダイスは振らずに固定値で処理します。

 また闇の力の影響によりHPが増えていますが、魔石を手放したため攻撃力は下がっています」


 今遊んでいるTRPGシステムは、プレイヤーキャラクター同士が戦う、いわゆる『対立シナリオ』は想定していない。

 そのためキャラクター同士をそのまま戦わせるのは不都合があるので、いろいろと工夫している。


 王子が大臣に、ロールプレイを振った。

 

「俺のキャラクターは武器を構えて言うぞ。

『俺はもともと、自分の武勇を試したい身だ。敵に回るというのなら、腕試しの相手にするだけさ。

 来るがいい! 全力で相手をしよう! それでおまえが死んだりしまいと思う程度には、俺はおまえの強さ、信頼しているぞ!』」


「おおっ……!」


 メイドさんや神官さんが感嘆している。

 それに続くように兵士長、女神様。その後にメイドさんと神官さんも。


「『拙者は王の騎士。行動の第一優先は、王を守り民を守ることでござる。

 ここまでともに旅をしてきた仲間といえど、民に危害を加える可能性があるのなら、鎮圧させてもらうでござる』」


「この身もいくのじゃ! ロールプレイは、こんな感じかの!

『闇を打ち倒す光の力を得たのに、闇に負けるとはなんという体たらくじゃ! お灸をすえてやるのじゃ!』」


「ええっと、ええっと、大臣さんのキャラクターは闇にやられてて、わたしのキャラクターは闇を打ち倒す鍵のキャラクターで、ええっと……!

『こ、このなんかすごくすごい力でー、なんかどうにかしますからー、今は戦いますー』」


「『うっうっ、本官に戦う力がないのが、くやしいであります……!

 みなさん、どうか彼女を、お願いするであります……!』」


 ロールプレイがばっちりハマってる。

 ネタバレをしておいた分、みんなしっかり流れに対応できてるみたいだ。

 今回のシナリオ、うまくいきそうだ。


「ワガハイのキャラは苦しそうに言うのですぞ! 『ミンナ、ニゲテ……アアッ……!』

 と言いつつ、右手は範囲魔法を打つのですぞ〜!

 攻撃範囲はプレイヤーキャラクター全員ですぞ!」


「えっと、攻撃力が下がってるとはいえ、あれ受けたらまずいですよね。どうしましょう、切り札特技を……」


「待つのじゃメイド! あやつの攻撃はこの身のサポートなしなら命中が低いのじゃ!

 むしろ妨害特技を乗せれば回避は容易なのじゃ! 『命中』判定の達成値をダウンなのじゃ!」


「よし! それなら俺は『回避』判定を振るぞ!

 ダイスの出目は……うん、回避成功だ!」


「拙者は耐えるでござる! 特技の効果で、物理防御力を魔法ダメージにも適用でござる!」


「分かりましたっ、じゃあわたしも回避を……

 ああっ出目が!? ひどいことになってます!? 致命的失敗ファンブルではないですけど、えっと……ああーっ回避するのに1足りないです!?」


「案ずるな! この身のキャラはサポート特化じゃ!

 こっちの特技でその達成値にボーナスを与えるのじゃ!」


「こ、これなら回避成功ですね!」


「うむ! そう言いつつこの身も回避を……1足りないのじゃー!?」


「異世界人、これワガハイうっかりみんなのキャラを倒してしまったりしたらと思うと、心臓に悪いですぞ?」


「なんか、すみません……大臣のキャラは固定値なのに、みんなの出目がここまで荒ぶるとは……」


 うーん、今回のシナリオ、うまくいくよね?

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