第3話 ここでの自分の役割は
王子、とその人は呼ばれていて、城に招待もされたわけだけれど。
いろいろ話を聞く感じ、そして城に到着した感じ、この国はこの世界の中でかなり小規模なものらしい。
お城と、その周りにある街と、あとはひたすら森と草原。あとまあ畑。
それで、この国の領土の全部。
「山を越えれば大きな国があるし、交流も交易もある。
しかしまあ、山越えは面倒だから、わざわざ出入りする人間は多くはないな。
よその国ではドラゴン退治をしたり、世界征服をもくろむ魔王を討つべく勇者が旅立ったりしたらしいが、この国にはゴブリンくらいしかいない」
とは、王子の談。
「平たく言えば、この国は平和だ。
平和すぎて退屈なくらい平和だ。
ただ国外に出てドラゴン退治のロマンを追うほどには、俺は強くない。
そのくらいは自覚している俺は、神殿で国を守護する女神様に日々お祈りをしていたわけだ。
平和を乱さない程度にちょっとした変化が起きて、愉快な日々が過ごせますように、とな」
「はあ」
「それで、きみがこの世界に来ることになったらしい」
「はあ」
「となると、きみが来たことで何か愉快なことになるんだろうが、きみは何ができる?
見たところ、吟遊詩人でも演奏家でも曲芸師でもなさそうだ」
「一介の大学生です……」
あれ、なんか僕、場違いな感じ?
王子とそんな立ち話をしながら(失礼にならないかちょっとビクビクしたけど、王子はフランクだ)、お城の中を歩いて、
玉座に王子のお父さん、つまり王様がいて、僕に言った。
「あー、好きにしたらええよ。
ワシは適当にやっとるし、異世界人のきみも王子と仲良くしてくれたら、それでええて」
いや、軽いな?
王様はそんな感じだけど、隣にいたおじさんは違った。
「甘いですぞ王! こんなしょぼくれてみすぼらしい男を安易に受け入れるなぞ!
異世界人と言いますが、ワガハイは信じませんですぞ!」
しょぼくれてみすぼらしくてすみません。
で、この人、大臣。
僕に対して悪感情を向けてくる。
いじわるな人なのか、でもまあこの人の立場からしたら僕は確かに不審者だし、まじめな人なのかな。
「異世界人と言うならば、それはもー絶世の美女と相場は決まっておりますぞ!
それも現実にはありえないような、こちらが何もしなくても勝手に好意を寄せてくれて、普段はツンとすましてるけど内心こちらにデレデレというような、そんなおなごと決まってるのですぞ〜!」
あっ違った、欲望に忠実な人だった。
そうだよね、僕の立場からしたら、やってきた異世界にロマンを求めるものだけど。
現地のこの人たちからしたら、僕の方こそ異世界からやってきたロマンの担い手なわけで。
それがこんなただの男子大学生じゃ、がっかりもするよ。
けれど、確かにこれは、困ったな。
女神のお告げまであってここに来たわりには、僕は平凡すぎる。
もしこれで、やっぱり期待外れだからお役御免、とでもなったら、帰り方も分からないし、けっこうまずい気がする。
横で王子が、僕の荷物の山を確認しながら、聞いてきた。
「たくさんの本を持ってきたようだが、学術書か何かか?
勉強は苦手ではないが、好きでもないぞ」
ぴくりと。僕の意識が、反応した。
本。ルールブック。
今、僕にできる、他の人を楽しませる方法。
「教えてくれ。この本は、なんの本だ?」
王子の問いかけに。
僕は、王子に向き合った。
「それは、ゲームの本です」
ゲーム。
その単語に、王子の目が輝いたのが、分かった。
「テーブル・トーク・ロール・プレイング――TRPGの本です」
ここは異世界。
ゴブリンもいれば、ドラゴンだって実在するらしい。
それでもドラゴン退治は、万人にできるわけじゃないというなら。
「空想の世界で、大冒険して、ドラゴンを倒したりするような、そんな夢物語を楽しむためのゲームです」
――その謳い文句は、きっとこの世界の人間にだって魅力的だ。
それを証明するように、王子の目は、こんなにもきらめいている。
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