第4話 「セッション」をしよう
お城の応接室で、テーブルを囲んで。
「TRPGは、ルールのあるごっこ遊びって言われるんですが――」
ソファに座る人たちに、説明する。
メンバーは、王子、兵士長、そしてメイドさん。
なんでこのメンバーになったかって。
「そのゲームは、何人で遊ぶものなんだ?」
そう王子に聞かれて、少人数用のゲームも持っていたけれど、普段の感覚で、
「ゲームマスターと呼ばれる司会進行役が一人と、プレイヤーが三人から五人というのが一般的です」
って答えたら、
「では兵士長を入れて、あとは……大臣は遊ぶ気がなさそうだし……
よし、メイド。きみが入るといい。ソファに座りたまえ」
「え、えっ!? わたしですか!?」
という流れで、たまたまお茶を持ってきたメイドさんが着席となった。
メイドさん、めっちゃ緊張してる。
そりゃだって、王子と、兵士長と、異世界からのお客さんだもんね。
一緒にいて場違いじゃないかなとか思うよね。
どっちかといえば、僕こそ本当は場違いな人間だと思うけど。
ともかく。
「こちらの世界と一般常識とかがずれてたら説明しにくいんですけど、この世界の子供もごっこ遊びとかしますか?」
「ああ。子供のころはへっぽこ魔法の光の剣で、伝説の勇者の剣技や口上をマネしたりしたものだ」
「拙者と一緒によくチャンバラしたものでござるなー」
「えっと、おままごとでお姫様の役をやったり……
あの、すみません厚かましいマネを! 平民のわたしがお姫様なんて!」
うん。ごっこ遊びの説明で通じそうだな。
今さらの話だけど、言葉も通じるし、おまけに文字の読み書きも問題なく通じている。
王子によれば女神の加護らしい。すごいね女神。
ともかく、説明を。
「ただのごっこ遊びでは、誰がどのくらい強いか、特技がどのくらいすごいか、はっきりしないですよね。
そこでTRPGでは、できることや得意なことを、数値で表現します」
言いながら、僕は情報を簡単にまとめた紙――サマリーを見るようにうながす。
三人とも、会議資料でも見るみたいに真剣に目を通してる。
こういう世界だから、紙や鉛筆はもしかして貴重品じゃないかなと思ったけど、安価に製造できるらしい。よかった。
おまけに書いてある内容をコピーする魔法まであるらしくて、資料を簡単に用意してもらえた。
わーお、異世界バンザイ。さらばコピー代。
ルールや遊び方の説明をする。
王子がふーむとうなった。
「自分が演じるキャラクターが、どのくらい力強いのか、身軽なのか、賢いのか、器用なのか……それらをルールにもとづいて、数値にすると。
それにサイコロ……ダイスを振った数字を組み合わせて、挑戦した行為が成功するか判断する、というわけだな」
「拙者も分かってきたでござるぞ。能力が低くても、ダイスの数字次第で成功したり、逆に能力が高くても失敗する可能性があるのでござるな」
「はい。そのあたりがゲーム性です」
メイドさんが、不安そうに顔を上げた。
「さっき聞いた説明だと、わたしたちがチームになって、冒険をするってことですよね。
得意なのに失敗して、それで足を引っ張ってゲームに負けちゃったらって思うと、ちょっと、心配になりますね」
「ああ……」
これは、最初に言っておかなくちゃな。
「TRPGは、勝ち負けや成功失敗の概念はあるにはありますが、必ずしも勝ちを目指すゲームではありません」
三人の目が、こちらに向く。
「ええっと、僕はゲームマスターとして、みなさんが冒険する舞台設定や、立ち向かうべき障害や敵を用意するわけですけど。
それはみなさんを負けさせるためではなく、ほどよくスリルを感じながら乗り越えてもらうためです。
僕は敵役ですが、みなさんに気持ちよく勝って楽しんでもらう、それが目標です」
それぞれの目が、興味や関心や困惑を映す。
「TRPGの一番の『勝ち』は、参加者全員が楽しいと思えることです。
それはプレイヤーも、ゲームマスターも含めてです。
敵役も味方役もみんな協力して、競い合い高め合いながら、ひとつの物語を完成させていきます」
王子は期待。兵士長は感心。メイドさんは困惑。
それぞれの視線がそんなふうに読み取れる。
そしてそれらのすべてを、楽しいという気持ちにしたい。そうできたらいい。
僕はそう思う。
「例えるなら……演奏家がお互いの音に刺激を受けながら、ひとつの音楽を作るみたいに。
だからだと、僕は思ってるんですが。
TRPGを遊ぶことを、一般的にこんな単語で言うんです――」
まさしくその単語は、TRPG以外では、ロックバンドやジャズバンドの演奏の際に使うようなもの。
そのとき集まった人間で、ときに音楽を、ときに物語を、つむいでいくその単語は。
「――『セッション』と」
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