第2話 異世界に来たみたいです

 異世界転生になるのか、異世界転移になるのか、自分ではよく分からなかった。

 状況としては、自宅で翌日やるTRPGの配布物を整理してるときに、積み上げてた本が崩れて下敷きになった、というのが前の世界での最後(最期?)だったはず。

 雰囲気作りの資料として、怪しげな魔術の道具を通販で大量買いしてたから、それが何か悪さをしたかもしれない。


 さしあたって、その状況から次に目を覚ましたら、だだっ広い草原にいた。

 青空で、そよそよとした風が気持ちいい。

 遠くに森と、反対側の遠くには外国の田舎町のような街並みが見える。

 そして周辺には、TRPGのルールブックがばらばらと散らばっている。

 うわ、土とかついてないかな。虫とか押し潰してたら最悪だぞ。なんて、呑気に考えていた。


 状況が分からなすぎて、ちょっと呑気すぎたのかもしれない。

 何かが草原を、ガサガサとかき分けて近づいてくる。

 僕はそれを、なんの警戒もなく、その場で立ち止まって様子を見ていた。


 結論から言えば、それはゴブリンと呼ばれるモンスターだった。

 小学生の子供くらいの大きさの、緑色の怪物が、棍棒を持って僕に襲いかかってきた。

 本当に状況が分かってなくて、襲われてるって自覚すら、この時点でなかったんだけど。




「伏せろ!」




 そんな状況だったから、反対側から聞こえてきた声にも、まったく反応できなかった。

 結果として棒立ちだった僕のすぐ横を、光の矢のようなものがかすめていった。

 それはゴブリンに刺さって、ゴブリンは痛がって、退散していった。


「きみ、ケガはないか?」


 そんな声が、ぱかりぱかり、たぶん馬のひづめの音と一緒に聞こえてきた。

 僕は振り向いた。


 白馬の王子様。

 そうとしか形容のしようがない、金髪サラサラでイケメンな男性が、真っ白な馬に乗って現れた。

 あ、女性がこれにあこがれるの、分かる気がする。

 同性でも、ちょっとドキッとしたもん。


 金髪イケメンさんが馬から降りて、こっちに歩み寄ってくる。

 その後ろから、ドドドドドとすごい勢いでもう一頭の馬が駆けてきた。


「王子ー! 拙者を置いて先行するなんてひどいでござるぞー!

 強い魔物が出るような場所ではないとはいえ、王子の身に何かあったら拙者、死んでもおわびしきれんでござるぞー!」


「兵士長はおおげさだな。俺だって自分の身は自分で守れる」


 ふふんとイケメンさんは胸を張って、後から来たごつい人はわーわーまくしたてている。

 王子と、兵士長? そういうロールプレイ……ってわけでもなさそうだ。


 で、イケメンさんこと王子様が、こちらに向いて。


「騒いですまないな、異世界の人。

 女神からお告げがあったんだ。きみがここに迷い込んでくるから、保護してやってくれと」


「はあ」


 そうなんだろうなとは思ったけど、やっぱり僕は、異世界に来てしまったらしい。

 王子様がいて、魔物がいて、なんか光の矢みたいなのを飛ばしたりする世界に。


「こんなところで立ち話もなんだし、城に来るといい。

 だが荷物が多そうだな。ひもでくくって馬に乗せて、俺たちは歩くか、兵士長」


「んもー王子はすぐそうやって体を張る〜護衛をする拙者の身にもなってほしいでござるよ〜」


 わいわい楽しそうに盛り上がる。

 僕はきょとんとそれをながめていて、それから本を束ね始めてくれたからさすがにそれは自分でやって、馬に乗せてもらって、みんなでのんびり歩いた。


 異世界に来て、最初に出会った人を無条件で信じていいのか、迷わなかったわけじゃないけれど。

 でもまあ、悪い人たちじゃなさそうだと思う。

 そして実際、悪い人たちじゃなかった。

 よかった。

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